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「土方さん、無理しすぎじゃないですか?」
「無理?心当たりがねェな」
「……まったく」
ほとほと呆れる、とはこのことだろう。もしかしてこの人は過労死したいのか。そんなもの士道不覚悟である。切腹である。……あ、いや、それじゃまずいか。
そんな阿呆なことを考えていると、不意に視界へ光が差し込んだ。眩しさに目を細めながら見上げれば、どうにも日の出らしく。
「──青空だったんですね」
その光によって照らされた空が真っ青だったから、私は思わず驚いてしまった。それに、なんだか一面──。
「氷塵、だったか」
氷塵。氷の、塵。
気まぐれにお江戸へ訪れた“一番の冷え込み”とやらは、水蒸気さえも透明な塊へ変えてしまったようだった。空に散らばったそれらは、冬日を吸い込んできらきらと輝いている。
「すごい、初めて見ました」
「俺もだ。こんなもん、北でしか見られねェもんだと思ってたが……」
江戸も捨てたもんじゃねェな、と。微笑みと形容するのが相応しいだろうその表情に、私は一瞬見惚れてしまって──慌てて、目をそらす。
土方さんに悟られないうちにと庭へ視線を戻した私は、それらの輝きに頬を緩めた。光を受けた白はやっぱり綺麗で、今度はそちらに見とれる。……見とれていたら。
「──あれ、」
すっかり冷気にあてられた頬へ、冷たい何かが触れたような気がした。右手でそこを確かめれば、透明な水が数滴。
「……雪か?通りで寒みィわけだな」
「そうですね、また雪かきしないと。……でも」
青空に、雪は映えますねえ。再び頭上を仰いで言った。
風花って言うんだっけ、こういうの。ひらりひらりと舞い落ちる白い花は、私が手を伸ばした途端消えてしまうんだろう。
……せつない、なぁ。折角目の前にあるのに。
そこにあるけど、触れられない──まるで土方さんのようだ。
そんな思いを抱えてそれらを見つめていれば、「オイこら、風邪引くぞ」なんて声をかけられてしまい。
「どうせ朝から外にいたんだろ」
仕事してて丁度暖房たいてんだよ、あたってけ、と。そろそろ寒さも限界に近かったので有り難くそうさせてもらうことにする。……いやはや。
(──今日は、いい朝だったなぁ。)
寒かったけど、疲れたけど。でも、いいものが見れた。──土方さんと一緒に。
強くなり始めた陽の光によってあたりが温まっていくのを感じながら、私の顔は、胸を満たす幸福感に緩みきってしまうのだった。
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あくび少女 - こんな綺麗な物語、いつか私も書きたいです。 (2019年7月20日 22時) (レス) id: 1b61770dea (このIDを非表示/違反報告)
きなこ(プロフ) - 今までどの作者さんも好きでよく拝見させていただいてました。今では、憧れから自分の小説を書いているのですが、皆さんの素晴らしさを身に染みて感じました。(宣伝みたいですね……ごめんなさい。)これからも沢山の作品を楽しみにしています! (2018年2月6日 22時) (レス) id: 6b9c59579e (このIDを非表示/違反報告)
うおーあいにー(プロフ) - 私が今まで見たことのない位の語彙力と素敵な言葉でできていました! (2017年12月9日 8時) (レス) id: 7ec2bdde97 (このIDを非表示/違反報告)
みぷ(プロフ) - 文章一つ一つが綺麗で、とっても素敵だなと思いました!表現や言葉にも意味が詰まっていてぜひ参考にしたいなと思う作品でした!次の企画があることを楽しみにしています! (2017年7月28日 18時) (レス) id: 941945c1ec (このIDを非表示/違反報告)
戦胡蝶(プロフ) - 本当に綺麗な言葉で綴られたお話ばかりで全部一気に読んじゃいました!素敵なお話ばかりで心がほっこりしてます!!素晴らしい作者様ばかりで私も見習わないとと意気込んでおります(笑)またこういう企画を行ってくださるのを楽しみにしてます! (2017年7月27日 13時) (レス) id: de5c5c0c62 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しののめ x他4人 | 作者ホームページ:http://nanos.jp/aoikasou/
作成日時:2017年7月1日 1時