サイレント・クンツァイト２ (ページ2)

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『着いた』

忘れ物ないか確認してブーツ履いて急足でアパートの階段を降りる。

「……え？」

アパートの前に横付けされた車。

まさかと思って運転席覗き込んだらスマホ見ながらナビ触ってる樹がびっくりしてる私に気づいて笑って。

助手席の窓が開く。

「…おはよ、寒いから早く乗んな」
「あ、うん」

今日はちょっと遠出だから車実家から借りてきた、びっくりした？(笑)ってカラーサングラス越しに目が合って。

少し高鳴った胸に自分で戸惑って。びっくりしたよ、言ってよ！って慌てて返す。

「言ったらサプライズになんないじゃん(笑)」
「サプライズ？」
「今日はサプライズデートね」
「…ネーミングダサくない？」
「ねえ。(笑)なんでそういうこと言うんだお前は(笑)」

素敵〜！ぐらいやれよ！って樹がふざける。

あれ？なんか前みたいに普通に話せる。なんでだろう。

「忘れもんない？」
「うん、大丈夫だと思う」
「シートベルトした？」
「したよ」
「よし、じゃあ行くか」
「お願いします」
「んふ、出発しまーす」
「はーい」

ゆっくりと走り出した車は一度飲み物を買おう、とコンビニに止まる。

「樹コレでいい？」
「うん、それでへーき」

お茶を２本取り出してレジへ向かう。

当たり前かのように樹がお金出そうとしてくるから

「あ、ちょっと待って！」
「え、なになに(笑)」

これくらいしか出来ないから…ってもはや半分強引に店員さんにお金を渡して支払う。

ありがとうございます、とお茶を受け取って早急にコンビニを出る。

「…なにマジで、いーって」

車に乗り込んで樹にお茶を渡すと嫌な顔される。

「…でも車出してもらって、１日運転してもらうし、申し訳ないよ」
「……お前さあ」
「ちゃんとガソリン代とか請求してね？」
「馬鹿、請求しねーよ(笑)」
「だって…」
「もうお前今日財布車に置いてって(笑)」
「なんでよ、やだ」
「車もお金も気にしなくていーから、その代わり、」
「その代わり？」
「…１日ちゃんとデートだと思って過ごして」
「………」
「そんで俺のワガママ一個だけ聞いて」
「…なに？」
「それは着いてから言う」

…な？それでチャラ。いいっしょ？ってケラケラ笑ってた樹がこっち見て優しい顔をする。

…ずるい。

口を噤んだ私を見てじゃあ交渉成立ね？って。

出発するよってシートベルトの確認されて、走り出した時に

「…でもAのそういうとこが好き」

って落とされた独り言のような言葉は聞こえないフリした。