サイレント・クンツァイト２ (ページ6)

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樹と出逢ってから今の今までの出来事が全て思い起こされるような、そんな感覚。

確かに樹はいつだって優しかった。

特別、優しかった。

今までの全ての樹から与えられる『愛情』という名の優しさが私の中に染み込んでいって、溢れたソレは、

「っは、…何で泣くの」

ぽろん、と目からこぼれ落ちてく。

いつだって余裕そうで、落ち着いている樹が私から溢れたたった一粒の涙で、びっくりして慌てるように。すぐ眉を下げて心配そうな顔をする樹が。

たまらなく愛しい、と思ってしまった。

「うぅ……ありがとう樹」
「…あーもーなに、なんで泣いてんの」
「……うれしいから」

貰った花束をきゅっと大事に抱き締めて、そう言うと

…ねえ、ほんとずるいお前、って手で顔を覆った樹。

ずるいのは樹だ。

どうしてそんなに無条件の優しさを与え続けてくれるんだろう。

「…泣き止んで、……今めっちゃ抱き締めたいけど花あってできないから」

って樹の手が伸びてきてこぼれた涙の跡を優しく撫でられた。

そのあと、冷えてきたねって車に戻って家まで送ってくれた樹。

「１日ありがと樹、運転もありがとう」
「ん、いーよ楽しかったから」

家の前に停まった車の中で、降りる準備する私に樹が何か言いたげな顔をしてたから。

「……どうしたの？」
「…今日、楽しかった？」
「楽しかったよ、すごく」
「…少しは好きになってくれた？」

暗い車内を照らすのはゆるい街灯の灯りだけ。

ぼんやりとした視界の中でも樹がどんな顔してるのかだけは鮮明に見えて。

樹がくれた〝好きだよ〟の言葉に簡単に好きだよ、なんて返したらダメだと思ったから。

ずっと与え続けてくれた優しさを単純な言葉で分かったフリもしたくなかったから。

…ちゃんと考えて、ちゃんと、言うからもう少しだけ。

「……樹のことは出逢った時からずっと好きだよ」

そんな曖昧な私の返事を聞いて、樹は驚いた顔して困ったように笑った。

「…なら、よかったわ」

って。