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…コケんなよ、って笑いながら先に乗って、手を差し出してくれるから掴まる。
一周約１５分でーす、ってスタッフさんの声に扉が閉まる。
真冬だから陽が落ちるのが早いな、なんて淡い青とピンクの混じり合った朝方のような景色を眺めて、少しずつゆっくりと上がっていく景色に心が踊る。…綺麗。
所々に見える夜景とイルミネーションの灯り。
…あ、さっき歩いてきたところもイルミネーション点いてる。
「樹見て、あそこの…」
ワクワクしながら向かい側に座る樹に視線をうつしたら先にこっちを見てた樹と視線がぶつかって。
……あまりにも。
あまりにも、優しい顔を向けるから言葉に詰まる。
「…なに？」
「あっ、……あそこ。さっき歩いたところイルミネーション点いてるねって…」
「うん」
「き、…きれいだねって言おうとして、」
「ん、キレーだね？」
「……うん」
見透かしたようにちょっと笑いながらドギマギしてる私の話に相槌を打って、途切れた会話。
もうすぐ、頂上。
少しの沈黙の中、先に破ったのは樹だった。
「…緊張してんの？(笑)」
「…してないよ」
「俺はしてるよ」
「……なんで樹が、」
どこが緊張してんの、っていつだって余裕そうな樹にでかかった言葉は途中で途切れた。
樹越しに見えてた景色が見えなくなって、観覧車が小さく音を立ててガコン、と揺れたと思ったらバニラの香り。
隣に樹が移動してきたことを理解するのに時間がかかった。
「…じゅ、」
「A」
「…………」
「………キスしてい？」
距離にして、５センチ。
先程までの柔らかく笑う樹はいなくて、いるのは真面目な顔した樹で。
視線が混じり合ったまま、私の視線は樹の目を交互に行ったり来たりしたまま。
こんな状況で樹の二重、綺麗だなあ。とか涙袋うらやましい。あ、ほくろ。なんて考えてる天使と
いやこの状況、どうすんだよ馬鹿なのオマエって焦ってる悪魔が喧嘩してる。
「……なんも言わねーとマジでするよ」
「だ、だめ…」
「…じゃあ、しない」
「…へ、」
「お前がヤなことは、しない」
そう言って柔らかく笑った樹との５センチの距離が開く。
１２時を過ぎた観覧車はゆっくりと降りて行く。
あっちレインボーブリッジ見えるよ、なんて他愛もないことを樹が話すから
そのまま、何もなかったかのように外の景色を眺めて地上へと戻った観覧車。
おかえりなさ〜い！ってスタッフさんの声と共に扉が開いて先に降りた樹がまた、私の手を取ってくれる。
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作者名：なち
| 作成日時：2021年9月23日 19時
