サイレント・クンツァイト (ページ20)

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とりあえず、慎太郎たちに連絡する、と歩道脇のベンチに座らされた。

「…あ、もしもし？…うん、見つかった。あー、…………うん、無事。…みんなは？……そっか、わかった。ごめん、ちょっとこのまま送ってくるわ。……わりぃな。また連絡する」

今さっきまで起こった出来事が何度も脳裏で繰り返されて

だけど追いかけてくるかのように樹の顔や姿、声や匂い、体温がその出来事をかき消すかのように私を包み込んで。

恐怖と安心のシーソーに乗ったかのような感情のまま、目の前で電話をする樹をボーッと眺めていた。

電話を終えて今日はこのまま送ってく。と、私の冷え切った手を取って歩き出した。

無言が続く中で、繋がれたままの右手からちゃんと樹の体温が伝わるのに時々走ってくる車の音に何度も振り返って。

そんな私を見ていた樹がその度に私の方へ寄り添ってぎゅっと手を握って。

いつもならエントランスで別れるのに、樹は部屋の前までついて来た。

「…ありがとう」

「……………A、今日泊まってっていい？」
「……」
「…てか、泊まってく。泊めて」

カバンから出した鍵を樹が開けて、押し込まれた。

有無を言わさせない空気感は〝わざと〟だと思った。

とりあえず風呂入れって言われて大人しくシャワーを浴びて、その後樹も借りんねってバスルームへ。

髪の毛乾かしてソファに腰を下ろして、ふとカバンに入れっぱなしだったスマホに気づく。

…連絡しておかなきゃ。

画面を開くと、追加で来ていたのは葵からだけ。

『無事でよかった。樹くんによろしく。こっちは大丈夫だから何かあったらすぐ連絡してね』

心配かけてごめんね、ありがとう。と返信をしてスマホを閉じた。

その後すぐに樹がお風呂から上がってきて、何も言わずに隣に座って。

どんな顔をしたらいいのかわからなくて俯いてたら、樹の手が伸びてきて腕に触れた。

「…痕になってる、」
「………」
「…痛む？」

首を横に振れば、樹は悔しそうな、苦しそうな顔をしていて。

その顔を見て涙が出そうになった。

「今日はもう寝よう」と寝室に連れてかれる。

俺はソファ借りるから何かあったら呼べよ。って私の頭にぽん、と触れて樹は引き戸のドアを閉めた。