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「俺ら別にそんな悪いことしたつもりないけど?」
ふざけた様子でヘラヘラと笑う。
「あ、そうすか。じゃあとりあえずここ着く前に警察呼んだけど。…悪くないならいいっしょ?」
樹はそう言って辺りを見渡す素振りを見せて。
「…、マジだりぃ。帰ろーぜ」
「ブスが調子乗んなよ、しね」
その樹の言葉に焦った様子で去り際に暴言だけ吐き捨てて、車に乗りこんで早速と男たちは去っていった。
その瞬間、全身の力が抜けてへなへなと地面へ座り込んだ。
恐怖から解放されて手で顔を覆った。
「っ馬鹿、マジでお前ふざけんな、なんで…」
ごめん、って言おうとして言葉が出なかった。見上げた樹の顔が先ほどとは打って変わって、見たことのないくらい心配そうな顔をしてたから。
…樹はそれ以上、わたしを怒らなかった。きっと、顔を覆った私の手は、止めようとしても止められないくらいに震えていたから。
樹の顔を見てたら、ドッと安心感に包まれて鼻の奥がツン、とした。
…泣くな、警戒心が甘かった自分が悪い。あの時ちゃんと慎太郎くんに着いてきて貰えばよかったんだ。
ぐっと飲み込んで、口角上げて。
「…ごめんね樹、迷惑かけ、……」
そっと、手を引かれ抱き寄せられて
「…無事でよかった、マジで、」
か細い、安堵に包まれた声で。
嗅ぎ慣れた、甘いバニラの樹の香りがして。
こんな寒い日に、樹の体はぽかぽかと暖かくて、肩が息で上がってて。…それなのに私を抱きしめ、私の手を掴んだ大きな手は、後頭部に回された手は、とても冷たくて。
…あぁ、きっと。きっと、すぐに走って急いで来てくれたんだな。心配、させてしまった。
また鼻の奥が痛くなって、視界が滲む。
ちょっと鼻を啜った私に気付いて、抱きしめる力がギュッと、強くなる。
「……怖かったっしょ」
「…こわかった」
「…Aも、女の子なんだからさ」
「……うん、」
「…マジで、気をつけろって。こういう時はちゃんと慎太郎とかジェシーとかさ、……いや、俺に声かけて」
「……うん、ごめんね」
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作者名:なち | 作成日時:2021年9月19日 3時