スタンドバイ・ユー (ページ49)

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もういつからこうなってしまったのかすら思い出せないけど、とある日〝仕事〟で遅くなると連絡してきた彼から嗅ぎ慣れない甘ったるい香水の匂いがしたことも。

彼が登録してたスマホの動画再生アプリ。好きに使っていいよ、ってよく貸してくれてたスマホにいつの日からか、６桁の数字を打ち込まなければいけなくなったことも、その数字さえも。

週末の泊まりがけの出張も。

突然の夜中の〝仕事〟の呼び出しも。

ぜんぶ、ぜんぶわかっていた。

私が知らない私物が増えて、あれ、こんなネクタイ持ってたっけ？って言った時の彼の顔も。

前に行った和食屋さんの名前なんだっけ？あのすげー雨降った日あったじゃん、ってわたしの中にない思い出話も。

車の助手席のドアの小物入れにあったわたしのものではないヘアピンも。

ずっと気づかないフリをして、この自分の中に渦巻く感情にも気づかないフリをして。

どこか、期待していたんだ

もしかしたら、戻ってきてくれるかもしれない。
もしかしたら、また前みたいになれるかもしれない。と。

……そんなこと、あるハズなかったのに。

ネクタイもヘアピンも、お前の存在が邪魔なのだと、
彼は私のものなのだと言われてるようで嫌だった。

だけど、言えなかったのは好きだったから、じゃない。

きっとひとりになることがとてつもなく怖かった

ここがなくなってしまったら、わたしの居るべき場所が無くなってしまうような気がしていたから。

思ってたことぜんぶ、言葉にして吐き出したら腕を引かれ、

「…えっ」

気づいた時にはわたしの好きな、匂いがして

抱き締められているのだと気づく。

「……もうひとりで泣かなくていいよ、寂しい思いも、悲しい思いも、しなくていい」

……俺が守るよ