スタンドバイ・ユー (ページ47)

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その後の記憶は、曖昧だった。

気づいたらタクシーの中にいて、窓の外の流れるキラキラとした風景をぼーっと見ていた気がする。

タクシーに揺られながらわたしの左手はずっと、何も言わずに左隣から伸びてきた大きな右手に包み込まれていた。

合間で脳裏に焼きついた先ほどまでの光景が事細かに蘇る度に、その右手がわたしの左手を時折きゅっと指先を包んで、親指で優しく摩っては「大丈夫だよ」と伝えてくれる。

車内の会話はないまま、２人を乗せたタクシーは「…ここで大丈夫です」という田中さんの声で路肩に寄って停車した。

手を引かれるまま降ろされて、田中さんは何も言わずに大きなマンションのエントランスを潜った。

キーをかざして、自動ドアを抜けて、エレベーターに乗り込む。

６階で止まって、扉の前で繋がれたままだった手が離される。

「……入って？」

鍵を開けられたドアを押さえてる田中さんを見上げる。

そこでやっと、記憶が整理されて、今いる場所が田中さん家の前だということを理解する。

…ノコノコとついてきてしまった

心配をかけてしまっている。
無理にでも笑って、大丈夫だと言えばよかった。

黙ってたら、…何もしないから、とりあえず上がって、って言われて。

…そんなことじゃない、そんなこと不安に思ってない。

優しい田中さんのことだから放っておけず、連れてきてくれたことくらいわかってる。

「…おじゃま、します」
「ん、靴脱いで、こっち来て」

玄関に一歩、足を踏み入れた瞬間に田中さんの甘いバニラの香りがして、なぜかホッとした。

リビングに通されて、ソファに座らされる。

ぼーっとしてたらはい、お待たせってホットミルクの入ったマグカップ渡される。

「…ありがとうございます」
「……それ飲んで、ちょっと待っててね」

そう言ってバタン、とリビングから出て行った田中さん。