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……疲れた。
ふと顔を上げて窓の外を見れば真っ暗で、
時計に視線を移せば短い針は８を指していた。
要領が悪いのか、運が悪いのか、それとも……嫌われているのか。
ときどきある、定時上がりの直前の仕事依頼。
「昨日頼んで朝提出してもらったコレ、間違ってたから全部作り直してね。…今日中に。」と、定時の１８時まであと１５分のところでデスクに雑に置かれた資料。
…朝イチで提出してて、今…か。
ため息を心の中でついて、パソコンと睨めっこして入力をし直していた。
同期で仲の良いユウリちゃんが私も手伝うよ！！って聞かなかったけど、今日は彼氏と記念日ディナーってあんなに楽しみにしてたから丁寧に丁寧にお断りした。眉を下げて、何かあったらいつでも電話ちょうだいね！って渋々帰っていった。
目がチカチカしてきて、残り少しのところだったけどちょっと外の空気吸いたい、と思って向かった非常階段。
あまり使われていない非常階段は、居残りの多い私にとっては大事な息抜き場で、ちょっとした秘密基地。
自販機でカフェラテを買って、少し重いドアをゆっくり押した。
開けた瞬間にふわっとそよ風が吹いて、深呼吸をした。……なんか煙の匂い？
あたりを見渡しても誰もいなくて。
…気のせいか。
プルタブを開けてひとくち。
「……もしもし？」
突然の声にビクッと肩が揺れた。
…えっ、だれ…どこに、
「お疲れ。…んーまあ、なんとかなるっしょ。(笑)」
キョロキョロ周りを見渡してふと上を見上げたら、非常階段に座る人影が。
ビックリしてよろめいた私の足音にその後ろ姿が振り返って目が合う。
…初めて見る人。
電話してるの邪魔したら悪いな…、と思って引き返そうと体の向きを変えた。
「……わりぃ、またかけるわ」
と、電話を終わらせて、階段を降りてくる。
えっ、え、え、とこちらに来る人影に謎に焦る私。
「…あれ、邪魔しちゃった？」
階段を降りてきたのは、スーツを着たオールバックの男の人。えっ、ちょっと怖そう。
「あっ、いや、こちらこそお電話してたのにすみません…」
「ふはっ、いーのいーの、大した電話じゃねぇから。」
その人は目尻にシワを作って優しい顔して笑った。
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作者名：なち | 作成日時：2021年7月20日 21時
