& mellow drama【 短編集 】

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夜の観覧車は静かで、
遊び疲れた私たちをゆっくりと回した。


この世の全てが1粒の光に見えるほど高くまで昇ってから
「疲れたね、」と彼が笑った。







「岩本くんお化け屋敷だめなんだもん。意外すぎ」

「誰だって苦手なもんの1つくらいあんの」

「もう枯れたね、喉が。あーあ楽しかったなぁ」

「何言ってんの。まだ始まったばっかじゃん」







「もっといいとこ探すの」って目尻を下げた。


ありがとう岩本くん。


こんな先生でごめんね。


今なら話せる気がして、あのね、と呟きながら
夜景を映す冷たいガラスに触れた。







「生徒にいじめられてたの。
人気のある先生じゃなかったじゃない？……私、元々。


それをね、気にかけてくれてた先生がいたの。
学年主任で、皆から人気のある先生。
頼りにしてた。何でも相談できて。……でもね、


交際を申し込まれた。それをね、断ったら、
次の日から学校がもっと地獄になってた」






岩本くんの顔は見れないけれど多分
彼のことだから、真っ直ぐに私のことを見ているはず。






「何で私が悪くなっちゃうのかって、人望がないから」

「そんなことないよ」

「…あるよ。さじ加減で空気にされちゃうんだもん」

「世の中が不条理なだけ。せんせは悪くない」







「悪くねぇよ」。
いつのまにか彼は私の手を握っている。


今日はたくさん手を繋いだね。


がたん、と突然立つからびっくりした。


頼り甲斐のある腕の中に、彼は私をそっと閉じ込めた。







「そんなとこ捨てたっていいよ。俺と行こ」

「…戻れなくなっちゃうよ」

「戻らなくていいじゃん」

「……でも、…………でもさ、」

「行こうって、」







煙草も簡単にすごい量をスパスパ吸って
いつも眉間に皺が寄ったような顔なのに、くしゃくしゃな笑顔が狡い。………彼は。


な、行こう？


甘えたような優しい囁き。


彼は哀しい私を相手にしてくれるほど、優しすぎる。







「………戻りたくないよ。ほんとは」

「はいよ。分かった。んじゃ強引にでも連れてく」

「何で？岩本くん」

「何でかな。俺、せんせーのことほっとけないの。
そいつらがせんせーのこと要らないなら俺が貰っちゃうだけ」







彼はどんな生き方をしてきたんだろう？


彼の身体に染み付いた苦い香りが鼻腔を擽った。






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