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河川敷にある公園のベンチに俯いた姿のAが居た。足元にはいつか見た描きかけの絵。
それだけを持って家を出たその姿が痛々しく映る。
｢A｣
そっと上げられた顔は、俺を見るなりゆるりと潤んだ。Aは確かに俺を待っていた。それを証明するかのように、ぽろぽろと涙が溢れてくる。
｢なんにもなくなっちゃったの｣
｢心配すんな｣
――Aは自分を慰める方法を知ってる
｢元々なんにももってなんかないの｣
｢そんなことねえよ｣
――Aには誰にも創り出せない音と色がある
｢お兄ちゃんを信じてたの｣
｢家族だからだろ｣
――きっと他人と自分の弱さを許せる時が来る
どれも俺が知っている感情だった。俺でも乗り越えられた道を、Aが乗り越えられない訳がないとはっきり言える気がした。
Aは俺にぎゅっとしがみつく。
｢……これから全部変わっちゃうのも怖い｣
ぽろりと零した言葉は、きっと今Aが恐れているものの全ての根幹だった。
｢……お前が曲を作って絵を描くことは変わらねえよ｣
もし、本当に俺とAが同じような呪いと、同じ質の慰めを知っているのなら、何があっても創ることをやめることはない。
｢そうかな｣
｢多分な。俺だったらきっと、何処にいても何をしてても、音楽からは離れない。離れられないと思う｣
｢……そうかも｣
Aの表情が変わる。何かが削ぎ落とされたような透明な目をしていた。
｢……ユンギさんはすごい｣
｢何が？｣
｢何を聞いても答えをくれるから。物知りおじいちゃんみたい｣
Aは少しだけ笑った。
それから俺達はどちらともなく表情から強ばりを解いた。
帰ろうと促して、絵を拾い上げる。その絵はいつしか見た絵に、柔らかい色が乗っている。それは光のようなものを描いていることがなんとなくわかった。
Aの心の中の柔らかい部分。俺がAを好きな理由。
――俺が音楽を創る意味。
Aを見ていると、なんとなくはっきりしてくるような気がした。
｢――どうしたの？｣と道の途中でAが俺にそう問いかける。
｢なんていうか、音楽をやってる時もそうなんだけど｣
｢うん｣
｢俺の存在がお前みたいなやつの慰めになってるならいいって思ったというか｣
｢……うん｣
｢まあ……作業室に帰ったら曲にするよ｣
とりあえず、この感覚を音にしたい。言葉には出来ないから、曲にして聞かせよう。
俺はじわりと広がった熱をそっと握りしめた。
end.
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ムルーア(プロフ) - 初めまして💜一気に読んじゃう程話に吸い込まれて胸がギュッとしました😭素敵な作品ありがとうございます🥰 (6月21日 20時) (
レス) id: e97b81299d (このIDを非表示/違反報告)
sai(プロフ) - めーぷるさん» ありがとうございますー！私も雰囲気は気に入ってるので嬉しいです……！ (2019年6月30日 16時) (レス) id: 00e0a369b0 (このIDを非表示/違反報告)
めーぷる(プロフ) - 大好きです、この作品 (2019年6月25日 14時) (レス) id: eb55ea3859 (このIDを非表示/違反報告)
sai(プロフ) - りおさん» ありがとうございます！ 結構淡々とした話だったので、楽しく読んでいただけて嬉しいです！ (2019年6月24日 13時) (レス) id: 00e0a369b0 (このIDを非表示/違反報告)
りお - とーーーっても面白くて、どんどん読み進めちゃいました！ (2019年6月22日 2時) (レス) id: 189551a3bb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：sai
| 作者ホームページ：https://twitter.com/xxx___sai/
作成日時：2019年5月1日 16時
