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それからその空気はあやふやになり、もともとの目的であるサンハ兄さんのLDコレクションを袋いっぱいに詰め込んでAの家を後にしようと玄関に向かう。
だけど、意外にもAはドアの前でなにか言いたげに佇んでいて思わず｢この間は｣なんて話を始めていた。
｢その……｣
喉が張り付くみたいだ。
変な汗が吹き出そうになる。
Aの顔を見るのが怖い。
｢迷惑かけて、悪かった｣
そんな格好悪い言葉が口をついて出る。こんな言葉を言いたい訳ではない筈なのに。
｢お兄ちゃんが飲ませすぎただけですから｣なんて言うAの言葉に後ろめたさのようなものが膨れ上がる。許されたいという気持ちも。
｢変なことを口走った気がするから｣
まるで懺悔のように呟いて、ついAの顔を窺うと後悔した。
その顔がかあっと赤く染まったからだ。
――マジか
俺、本当にあんな小っ恥ずかしいことを口にしたのか。
頭をハンマーで殴られたかのような衝撃がやってきた。
その衝動でずらずらとあの夜のAが頭を撫ぜる感覚やら、手の暖かさや柔らかさやら、肩の薄さが鮮明に蘇る。
ぐわっと熱のようなものが込み上げてきた。
｢あの、｣とAが遠慮がちに何かを言おうとしたので慌てて止めた。
これ以上何かを聞いたら俺はここで死ぬと思った。
｢本当に何も言わなくていいから｣
嫌じゃないですと囁いたAの声がリフレインして、とうとう顔を塞いだ。
叫べるものなら今すぐここで叫び足したいとさえ思った。
｢じゃあまた｣
なんていうやけに気取った言葉を絞り出したのは最早気合いのなせる技だった。
何も言わずに逃げ帰らなかった自分を少しだけ褒めてもいい。あれが限界だったと自信を持って言える。
背中に飛んできた｢アイス、ありがとうございます｣というAの鈴を転がすような楽しそうな声がどうにもむず痒い。
自分の照れ隠しが全て伝わっているかのようで恥ずかしくもあり、それを見透かされた上で拒絶されなかったことに安堵の気持ちもあり、俺はドアを閉めるなり大きな溜息を吐いた。
｢心臓に悪い｣
情けない言葉が口をついて出る。
気の利いた言葉一つ使えない自分は本当にアーティストなんだろうかなんて情けなさも込み上げる。
でも、拒絶されなくて良かった。
最後にAは笑っていたような気がした。
たったそれだけの事が酷く心を温かくするのは、俺がAを思った以上に好きだからなのだろう。
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ムルーア(プロフ) - 初めまして💜一気に読んじゃう程話に吸い込まれて胸がギュッとしました😭素敵な作品ありがとうございます🥰 (6月21日 20時) (
レス) id: e97b81299d (このIDを非表示/違反報告)
sai(プロフ) - めーぷるさん» ありがとうございますー！私も雰囲気は気に入ってるので嬉しいです……！ (2019年6月30日 16時) (レス) id: 00e0a369b0 (このIDを非表示/違反報告)
めーぷる(プロフ) - 大好きです、この作品 (2019年6月25日 14時) (レス) id: eb55ea3859 (このIDを非表示/違反報告)
sai(プロフ) - りおさん» ありがとうございます！ 結構淡々とした話だったので、楽しく読んでいただけて嬉しいです！ (2019年6月24日 13時) (レス) id: 00e0a369b0 (このIDを非表示/違反報告)
りお - とーーーっても面白くて、どんどん読み進めちゃいました！ (2019年6月22日 2時) (レス) id: 189551a3bb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：sai
| 作者ホームページ：https://twitter.com/xxx___sai/
作成日時：2019年5月1日 16時
