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気がつくとエンジンの音が耳を擽った。
ここはどこで今はいつでどうしてここに居るのかもよく分かっていなかった。
ただ、隣にはAが居て、シャンプーのいい香りが漂っていて、キラキラと世界が明滅しているのだけが分かった。
夢か、現実か。よく分からなかった。
薄い肩に頭を寄せる。いい香りが鼻をつく。
筋肉なんて欠片もなさそうな柔らかい肌。
緊張したような身体の強ばり。
久しく感じていなかった安心感のようなものに浸っていると、ゆるゆると頭を撫ぜる指の感覚が心地いい。
触れてみたくなって、手に触れた。
細くて綺麗な指は音楽を作るやつの手だ。
暖かくて柔らかいそれは俺の妄想だろうか……なんて思うのは、Aが俺の手を受け入れるように握り返してきたからだろう。
これはきっと夢だ。
だって、あまりにも都合が良すぎる。
｢嫌じゃないか？｣
――俺のことが。俺の存在が。俺の気持ちが。
｢嫌じゃないです｣
囁くような呟きは空気に溶けるような柔らかさがあった。
｢そっか｣
安心した。幸せだと思った。
音楽をしている時とは違う、俺自信の満たされない部分があったかい何かで満たされるようだった。
独りよがりになるのは怖い。これを恋だと認めるのも、拒絶されるのも失うのも怖い――だから素直になれない。
なりたいと思う時もあるのに出来ないのは、そんな現実に向き合うのが恐ろしいからだ。
そんなほの暗い影の存在が眠気で掻き消される。
このまま、この満たされた気持ちのまま眠ってしまおうと意識を手放した。
このやり取りが現実だったとサンハ兄さんに聞かされるまで、俺はこの幸せな夢を浮かれた気持ちで日々を過ごしていた。
｢お前酔っ払ってAに絡みまくってたよなあ、タクシーん中で｣
なんていうからかい半分の告白で、俺は一気に現実へと戻ってきた。
もともと夢か現実か意識が混濁していて、時折もしかして……と肝が冷える瞬間はあったのだが、まあそんな都合のいい事なんて有り得ないだろと自問自答を繰り返してはいたのだ。
でも、いや、まさか、現実だなんて。
何気なく言うサンハ兄さんの口調が逆に恥ずかしさを増幅させる。
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ムルーア(プロフ) - 初めまして💜一気に読んじゃう程話に吸い込まれて胸がギュッとしました😭素敵な作品ありがとうございます🥰 (6月21日 20時) (
レス) id: e97b81299d (このIDを非表示/違反報告)
sai(プロフ) - めーぷるさん» ありがとうございますー！私も雰囲気は気に入ってるので嬉しいです……！ (2019年6月30日 16時) (レス) id: 00e0a369b0 (このIDを非表示/違反報告)
めーぷる(プロフ) - 大好きです、この作品 (2019年6月25日 14時) (レス) id: eb55ea3859 (このIDを非表示/違反報告)
sai(プロフ) - りおさん» ありがとうございます！ 結構淡々とした話だったので、楽しく読んでいただけて嬉しいです！ (2019年6月24日 13時) (レス) id: 00e0a369b0 (このIDを非表示/違反報告)
りお - とーーーっても面白くて、どんどん読み進めちゃいました！ (2019年6月22日 2時) (レス) id: 189551a3bb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：sai
| 作者ホームページ：https://twitter.com/xxx___sai/
作成日時：2019年5月1日 16時
