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｢元気出たか？｣
｢ちょっとだけ。でも、とりあえず落ち着いた｣
ゆるゆると腕の力を緩めると、優しく微笑むユンギさんの顔がすぐ近くにある。
私はなんて幸せ者なんだろうと思った。
｢色々……本当に色々やらなきゃいけないことと考えなきゃいけないことがあるけど｣
｢俺がなんとかしてやるよ｣
｢ううん。いい。自分でやってみたいの｣
何処に住んでいても、どんな仕事に就いていても、私が音と色と共に生きることは変わらない。
その言葉が時には呪いであり、時には救いになる。
言葉を噛み締めるように一つ深呼吸をする。スマホをポケットに入れてユンギさんから離れようとするけれど、何故かユンギさんは私を離さなかった。
｢そういうとこは頼らないのな｣
｢え？｣
少し不満そうなユンギさんの顔にびっくりする。
怒っている？ いや、拗ねている。
茫然とした私の頬をゆるりと撫ぜて、ユンギさんは表情を緩めた。
そして私がベンチの下に放り投げたままの絵を優しい手つきで拾い上げる。
｢――この絵は？｣
｢あ……なんとなく持ってきちゃって｣
私の幸せな時を描く色たち。手放せる訳がなかった。
｢……帰るか｣
｢うん｣
ユンギさんは絵を持った方とは別の手をこちらに向ける。相変わらず綺麗な指をしている。
私は大好きなその白い手を取って歩き出す。
これから色んな変化が私に起こるけれど、この温かい手の記憶があれば乗り越えられるんだろうなあなんて不思議な確信がじんわりと浮かんできた。
｢ユンギさん｣
｢ん？｣
｢ありがとう｣
｢ん｣
そうして私達は夜でも光が散らばる眠らない街の中を歩きながら、色んなことを話した。
お互いの故郷の話やどうしても憎むことの出来ない兄の話。過去やこれからの話や色々を。
絡まる指の感覚を愛しく思いながら、穏やかに相槌を打つユンギさんの横顔を見つめる。
ふとした拍子に目が合った時、ユンギさんは足を止めた。
｢どうしたの？｣
｢いや……｣
珍しく言葉を詰まらせるユンギさんの顔をのぞき込む。
｢なんていうか、音楽をやってる時もそうなんだけど｣
｢うん｣
｢俺の存在がお前みたいなやつの慰めになってるならいいって思ったというか｣
｢……うん｣
｢まあ……作業室に帰ったら曲にするよ｣
私はそんな言葉を聞きながら頷いた。
ユンギさんはぎゅっと私の手に力を込める。その姿はどこか吹っ切れたような顔をしていた。
end.
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ムルーア(プロフ) - 初めまして💜一気に読んじゃう程話に吸い込まれて胸がギュッとしました😭素敵な作品ありがとうございます🥰 (6月21日 20時) (
レス) id: e97b81299d (このIDを非表示/違反報告)
sai(プロフ) - めーぷるさん» ありがとうございますー！私も雰囲気は気に入ってるので嬉しいです……！ (2019年6月30日 16時) (レス) id: 00e0a369b0 (このIDを非表示/違反報告)
めーぷる(プロフ) - 大好きです、この作品 (2019年6月25日 14時) (レス) id: eb55ea3859 (このIDを非表示/違反報告)
sai(プロフ) - りおさん» ありがとうございます！ 結構淡々とした話だったので、楽しく読んでいただけて嬉しいです！ (2019年6月24日 13時) (レス) id: 00e0a369b0 (このIDを非表示/違反報告)
りお - とーーーっても面白くて、どんどん読み進めちゃいました！ (2019年6月22日 2時) (レス) id: 189551a3bb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：sai
| 作者ホームページ：https://twitter.com/xxx___sai/
作成日時：2019年5月1日 16時
