〈yoongi〉WHITE… (ページ50)

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夜の公園を走る小さな影。

ユンギさんの影だった。

街頭の光で浮かび上がるユンギさんの姿に私は俯く。

視界の端に二つの靴が映った。

｢A｣

優しい声、そして私を強く抱きしめる体温と力を感じて、また泣きだしそうになってしまう。

｢なんにもなくなっちゃったの｣
｢心配すんな｣
｢元々なんにももってなんかないの｣
｢そんなことねえよ｣

ぎゅっと抱き締められる腕の力が強くなる。

｢お兄ちゃんを信じてたの｣
｢家族だからだろ｣

私はユンギさんを抱きしめ返した。温かい体温が冷えた体にじんわりと染みる。

ユンギさんが私の辛さに短く正しい答えをくれることが慰めになる気がした。

｢……これから全部変わっちゃうのも怖い｣

家もなくなって、仕事もなんだか上手くいかなくて、ソウルに残る理由も地元に帰る理由もない。

やるべき事はあるのに、やりたい理由が何も無かった。

未来が真っ白だ。

これからの自分の姿が何も描けない――それが怖い。

自分の心の一番奥底にある深い淀を吐き出す。

縋り付くようにユンギさんに言えたのは、この人ならきっと私の望む答えをくれる気がしたからだ。

｢……お前が曲を作って絵を描くことは変わらねえよ｣

ユンギさんはまるで未来を知っているかのようにそう言い切った。

｢そうかな｣
｢多分な。俺だったらきっと、何処にいても何をしてても、音楽からは離れない。離れられないと思う｣
｢……そうかも｣

思い返してみれば、今まで辛いことがあった時は絵を描いた。

そうしていれば時間が過ぎて一時でも傷の痛みを忘れることが出来たから。

幸せな時は頭の中に音が溢れてきた。

形に残せばいつでも幸せな気持ちに戻れるから。

この二つを失った自分の姿を想像することは出来なかった。

多分ユンギさんの言葉は真実だ。

きっと私は何処で生きて、どんな風に生きようとも、音と色からは離れることが出来ないんだろう。

これからどんな変化が起こったとしても、それだけは変わらない。

そしてユンギさんもまた、音楽から離れられない人間なのだ。

｢……ユンギさんはすごい｣
｢何が？｣
｢何を聞いても答えをくれるから。物知りおじいちゃんみたい｣

私がそう言うとユンギさんは呆れたように鼻で笑った。