〈yoongi〉WHITE… (ページ48)

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何も考えたくないと思ったのは久しぶりだった。

スマホと財布と描きかけのあの絵を掻き抱いて私はとりあえず歩き出した。

真夜中の路地をぶらぶらと歩く。見慣れた道から大通り、そして知らない道へ。

大きなキャンバスを持ち歩く怪しい女を二度見する人も居れば、クラクションを鳴らしていく車もある。

でも、私はとにかく何も考えたくなかった。

昔のことも今のこともこれからのことも全て。

そうしてぶらぶらと歩いて何時間経っただろうか。

電源を切ったままのスマホも、習慣のように持ってきてしまった財布も、描きかけの絵も固まった腕の中でしんとしている。

時折見上げた道に置かれた看板につられてなんとなく進んだのは川沿いにある夜の公園だった。

せせらぐ川の流れも夜に見ると暗く、水面が夜景に反射して鈍い光を放つ。

時折ガラの悪い人達が屯していたり、フラフラと歩く怪しい男が居て、それを怖いと思う自分がいる。

怖いと感じられるなんて、私はまだまだ平静にしていられるらしい。

とりあえず見かけたベンチに座ってみた。肌寒い空気が頬を撫ぜる。

時刻を確認しようとして、スマホの電源を切っていたことを思い出す。

少し気が滅入ったけれど、とりあえず電源を入れてみることにした。

息を吹き返したスマホには両親からの連絡を告げる通知が入っている。着信は何十件もあった。

その中にユンギさんの名前を見つけて、思わず躊躇う。

――話して、どうするの

私は俯いた。本当は泣いて縋りたい。苦しいと言いたい。

だけど、会いたいなんて言ってしまったらユンギさんとの繋がりすらも切れてしまいそうで怖かった。

会いたいと我儘を言って、それを無理だと言われてしまったら……と思うと立ち直れる自信が無い。

ユンギさんはアイドルでありアーティストで。

六人の仲間と人生を賭けて夢を追っていて。

誰かを選んだらファンが悲しんで、そしてきっとユンギさんを憎んで。

もしかしたら人気も失って、そのせいで仲間をも失うかもしれない。

(ミンユンギはミンユンギ個人ではない)

きっとそれを分かっていて、ユンギさんも私も必要以上に踏み込めないでいたのではなかったか。

私はそれを分かっていたのではなかったのか。

｢……っ……！｣

勝手に嗚咽が漏れる。ぼろぼろと涙が零れてきた。絵を足元に投げ捨てて膝を抱える。

手に持っていたスマホが震えて着信を伝えた。

そこにはユンギさんの名前が無機質に光の中に浮かびが上がっていた。