〈yoongi〉WHITE… (ページ36)

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｢送ってく｣と言ったユンギさんに半ば強引にタクシーに乗せられてからも、私は俯いたままだった。

ユンギさんの手は私の手をすっぽりと包んだままで、離される気配がまるでない。

もちろん嫌ではなかった。ただひたすら申し訳なくて、ユンギさんの忙しい日々のちょっとした時間を私にくれたことが嬉しかった分だけ悲しかった。

ユンギさんが私とあの人のことで誤解をするかもしれないと思ったら怖かった。

｢もうそんな顔するなよ｣

暗い顔をし続ける私に、ユンギさんはまるで駄々っ子をあやすような困ったような笑みを浮かべてそう言った。

私が顔を上げてユンギさんを見ると、握ったままの私の指がゆっくりと解かれる。

｢でも、ユンギさんは嫌な気持ちになりませんでしたか？｣
｢まあ、あの男についてはムカついたけど｣

そんなユンギさんは柔らかい笑みを浮かべたまま、呟くように続ける。

｢そんなことより、俺にとっては重要なことは別にあったから｣
｢重要なこと？｣

私が問い返すとどこか満足そうな顔でユンギさんは繋がれた指の横の薄い部分をするするとなぞった。

ぞわぞわとする感覚にドキリとする。

｢こういう……いや、今日はいい。今度改めて言う｣

ゆったりとした口調でそう言って、ようやく穏やかな雰囲気が漂い始めた頃、タクシーが私の家の前で停車した。

するりと絡んでいた指が離れてしまう。

｢おやすみ｣
｢あの、本当に……｣
｢謝るなって。それよりも、俺にもおやすみって言ってくれよ……A｣

とびきり甘く聞こえたその言葉に、私は唇を引き結ぶ。

ユンギさんに名前を呼ばれたのははじめてだったからだ。

こんなに甘ったるい声で名前を呼ばれるなんて思ってもいなくて、私は唇を噛んだ。

どこか急かすようないたずらっぽい笑みに負けて｢おやすみなさい、ユンギさん｣と返すと満足そうに笑ってひらりと軽く手を振ってくれた。

夜闇の中にタクシーが消えるまで、私はそのテールランプを見届ける。

悲しかったはずの心にはいつの間にか甘い痺れだけが疼いていて、静かに熱い溜息を吐いた。