〈yoongi〉WHITE… (ページ29)

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茫然とする兄を置いて私は駆け足で帰った。

クローゼットに置いた画材を引っ張り出して、シャープペンでざっと下書きを描くと、絵の具を混ぜる。深い青をハケにとると迷いなく色を乗せた。

イメージは青い光だった。段々と淡いグラデーションを描き、様々な色を乗せ、白を乗せ、シルバーを乗せる。抽象画だった。

でも、私にとってこれは人物画だ。

危うげな光を放つ力強い炎。人を寄せ付けない高潔さを持ちながらも、どうしても引き込まれずにはいられないような青。

美しいピアノの音と電子音と低いベースの音。偽りのない正直な澄んだ光。

夢中で描いた。頭の中にはまだユンギさんの声が響いている。

大勢の観客の真ん中で歌う姿が私にはこう見えたのだ。

そうして気がつくと朝になっていた。

今日のバイトはお昼からだったので、寝ようか寝まいか悩む位の時間になってしまった。

でも、頭の中はとてもスッキリしている。

絵の具が乾いて、細かいところにもっと色を重ねて……と、スランプであったのが嘘のようにどんどんとイメージが固まっていく。

たくさんの絵の具を乗せたキャンバスはでこぼことした立体感と艶を放っている。

一段落ついたところで私はキッチンに向かいコーヒーを飲んだ。

｢うわっ凄いなお前の格好」

寝起きの兄が私の姿を見て顔を顰めたので、そこではじめて自分の姿を見る。
絵の具だらけの服と顔と黒ずんだ指先。

きっと髪だってベタベタになっているだろう。

｢シャワー浴びなきゃ……｣
｢あ、俺先に風呂使いたい｣
｢わかった｣

マグカップを持って部屋に戻る。少し離れたところからじっと描いた絵を見る。

こんなに迷いなく絵を描けたのははじめてだった。

すっきりした気分でコーヒーを飲む。

そして、なんとなくもう一枚のキャンバスを取り出した。古い方のイーゼルに立てかけるとシャープペンを持つ。

サラサラと乾いた音を立てて滑るそれは殆ど無意識だった。なんとなくという言葉が一番当てはまる。

私はそうしてバイトに行く直前まで、そうしてペンを滑らせ続けていた。