64.静かな夜に ページ16
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忙しいバイトが十時になると上がり。大人数の予約でてんてこ舞いの一日が終わって、帰路に着く。
どっぷりと疲れを溜めた体を引きずるように道を歩けば、静かな帰り道が暗闇を湛えてそこにあった。
｢……疲れたねえ｣
｢……疲れた｣
春といえど厨房は暑いし、バタバタと歩き回ったせいで汗もかく。戦場帰りのような気分で、頬を撫ぜる涼しい夜風に身を細めた。
｢ハヨンさん、旅行楽しんでるかな｣
｢うーん、どうだろ。結構心配してたし｣
｢Aがしっかりしてないからだろ｣
｢ジョングクのことだって気にしてたもん｣
他愛ない軽口を叩きつつ、宴会の余ったコーラを飲むジョングクの喉元を眺める。
隣を通った車の赤いテールランプが私たちの顔を染めた。
｢ジョングク｣
｢ん？｣
｢私ね、怖かったの｣
ぴたっと飲む手を止めて、ジョングクはひたりと此方に視線を寄越す。街灯を拾う黒い目が鈍い光を孕んでいた。
｢大事な人が出来たら、勝手に期待して、いつか勝手にがっかりするかもしれないって思ったの｣
｢……Aのお母さんのこと？｣
｢うん……｣
全てを知っているかのようにジョングクは静かに呟いて溜息をついた。
私は少し緊張していて、つま先に視線を落として浅い呼吸を繰り返す。
｢でも、私はやっぱりジョングクが好き。私を好きって言ってくれて、嬉しかった。でも、ちゃんとした返事をしなくちゃなって思ったら、上手に言える気がしなくて｣
｢うん｣
｢今も上手く言えないんだけど……｣
ジョングクのことを大事だと思えば思うほど、私の中で不安のような塊が膨れ上がっていく。いつか来るという終わりのことや、ジョングクの気持ちや、変化への恐れがそうさせていることはなんとなくわかっていた。
ぐるぐると巡る頭で、なんとか整理をしようとするけど、私はソクジンさんやナムジュンさんのように上手く伝えることができない。
すると、ジョングクが不意に私の手を取った。そして、ぎゅっと握りしめられて驚く。
ぱっと顔を上げると、何故か不機嫌そうなジョングクの目とかち合った。
｢俺も、上手く言えないけど……そういうの、関係ないと思う｣
｢え？｣
｢お母さんとか、家族とか、そういうの……元々俺にはないから｣
｢あ……｣
いつしか語ってくれたジョングクの過去のことがふっと頭を過ぎる。
小さい頃からずっと一人で居たジョングク。
私とは違う世界で生きていた人。
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おけ(プロフ) - ここまで1日で読みました‼︎このお話大好きです！応援してます！ (2022年2月8日 23時) (
レス) @page40 id: a8986157d1 (このIDを非表示/違反報告)
sai(プロフ) - はるさん» ありがとうございます〜！デビュー当時辺りを想像して書いてました 楽しんでもらえて良かったです！また気が向いたら続きも書くので、よろしくお願いします^^* (2020年2月7日 9時) (レス) id: 00e0a369b0 (このIDを非表示/違反報告)
はる - ひゃ〜〜この作品は大好きで何度も読み直しているので、新しいお話嬉しかったです！なんとも守ってあげたくなるまだまだあやふやなグク、、主人公ちゃんと出会って、お互いを好きになれて本当に良かったなと思いました！これからも応援しております！ (2020年1月29日 2時) (レス) id: 75eff8e160 (このIDを非表示/違反報告)
sai(プロフ) - じみちむさん» ありがとうございます´`* ちょいちょい書き足していきますので、また読んでください〜！ (2019年8月29日 22時) (レス) id: 00e0a369b0 (このIDを非表示/違反報告)
じみちむ(プロフ) - 番外編も最高でした♪( ´▽｀) (2019年8月26日 17時) (レス) id: f91208f58d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：sai
| 作者ホームページ：https://twitter.com/xxx___sai/
作成日時：2019年6月9日 16時
