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いつも以上に甘い匂いが充満して脳内がクラクラと酔ってしまいそうだった。
それでもやっぱり捨てることはできなくて花びらを包んでいたハンカチにはその香りが染み付いている。
『…何でよりによって銀木犀…』
[ギンモクセイ]:[あなたの気を引く/唯一の恋]
これではまるで……
Aは苦しそうに顔を歪めて倒れ込むように布団に顔を埋める。
『げ、ッ… ごほ…』
布団にはいくつもの銀木犀の小さな白い花びらが散らばっていた。
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「副長〜〜〜」
間延びしただらしない声を発する山崎は眉を八の字に下げ、顔までだらしなかった。
土方は彼を一見するどころか机に向かい書類にサインする筆を休ませることすらない。
「着流しの袖に花を入れていたでしょう? 洗濯に出すならちゃんと確認してくださいよ」
そう注意され初めて手を止め顔を上げる。
忘れていたわけではないのだが、うっかり、居酒屋で拾った花弁を袖に忍び込ませたまま洗濯籠へと入れてしまった。
そう、忘れていたわけではない、うっかりだ。うっかり。
「いや、それ、忘れてましたよね」
土方はガシガシと頭を掻き、大きな溜息を吐き出す。
「悪かったよ、…ったく、姑かってンだ」
「ちょっと…! ......それに銀木犀なんて一体どこで拾ってきたんです?」
「ギンモクセイ…? 知ってんのか?」
土方の問いに山崎は驚いた顔をした後「知らないんで持って帰ってきたんですか?」と、質問し返した。
「金木犀に似ているんですけど、白っぽい花弁が特徴で」
「甘い香りがするんですよ」
「…でも可笑しいですね、時期はまだ先のはずなんですけど」
やけに詳しい山崎に土方は顔を顰めたが、説明を聞くなり顎に手を当て何かを考え込むような仕草をした。
「何にせよ! 今度から気を付けてくださいね!!」
釘を刺すように再び注意を促す山崎の言葉など反対の耳から流れ出ているかのように土方は返事をしなかった。
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アカツキ(プロフ) - 美姫さん» コメント有難うございます。登場キャラの想いが交差してぐちゃぐちゃに絡まるような、そんなお話にしたかったのですが難しかったです... 最後まで読んでくださり有難うございました (2023年2月12日 10時) (レス) id: 359e2a8a6b (このIDを非表示/違反報告)
美姫(プロフ) - 切なくて切なくて、でもとても美しい作品で、涙が止まりませんでした。本当に最高の作品でした。ありがとうございました。 (2023年2月12日 7時) (レス) id: ac5aee6225 (このIDを非表示/違反報告)
アカツキ(プロフ) - おひなさん» 初めまして。コメント有難うございます。土方さん落ちは久々だったのでこれで良いのか迷走しましたが、おひなさんの暖かい言葉に救われました (2023年2月9日 7時) (レス) @page49 id: 359e2a8a6b (このIDを非表示/違反報告)
おひな(プロフ) - 最っ高な作品をありがとうございました!終始涙腺崩壊でした!w (2023年2月9日 2時) (レス) @page49 id: fb3fd917e6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アカツキ | 作成日時:2022年12月27日 23時