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此処は"あの時"と何も変わってない。
焼け落ちた残骸に遠い記憶を呼び起こした。
『もう良いよ』
彼は此処に来るだろうか。
来ないかもしれない、来なくていい。
でも、やっぱり心のどこかで来て欲しいと願ってる。
矛盾した心に頭を振り、焼け落ちた木材の物陰に腰を下ろした。
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雨が降っても私は彼の元へ帰ろうとは思わなかった。
隠れんぼは終わってはいないのだ。
「いつまでやんの?」
『1ヶ月だよ、言ったでしょ』
「はぁ…、風邪引くぞ」
銀時は傘を差し出してそう言った。
遠回しに「もう終わりにしろ」「もう帰れ」とでも言ってるみたいだ。
それでも私が頑なにこの場を動こうとしないから諦めたように溜息を吐き出して傘と大きめのタオルをくれた。
「松陽は此処には居ねぇぞ」
そんな事、言われなくても知っている。
そしてその人が私を探しに来てはくれない事も。
『......りんご飴が食べたい』
「は?」
『今度、お祭りがあるでしょう?』
「買って来いってか」
首は縦にも横にも降らなかった。
ただあの赤く艶めいた甘いそれを思い浮かべていた。
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「もう、いいかィ」
知った声に心臓が飛び跳ねた。
嬉しいのか悲しいのかよく分からない涙が出そうになるのを堪えながら小さい声で『もういいよ』の言葉を零した。
彼は私の頬に手を伸ばして汚れを拭う。
そして自身の膝が汚れる事など気にせず地に着いて私を抱き寄せた。
随分心配掛けてしまったみたいだ。
帰りはおんぶをしてもらった。
まさか本当にしてくれるとは思わなかったが言ってみるもんだ。
途中、作った組紐が手首からするりと抜け落ちたが私も彼も何も言わず、振り返りもしなかった。
私は安心したかったのだ。
松陽先生でなくとも、私を見つけてくれる人が居ることを。
『(晋助が見付けてくれた)』
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アカツキ(プロフ) - 紅さん» コメント有難うございます。そんなに長くならずに完結すると思いますがもう少し付き合いくださいませ (2021年3月29日 18時) (レス) id: 716f2c046c (このIDを非表示/違反報告)
紅(プロフ) - 応援してます!!更新待ってます! (2021年3月29日 13時) (レス) id: b08ab2dbca (このIDを非表示/違反報告)
アカツキ(プロフ) - 東雲 晄さん» 東雲さん、お久しぶりです。前作に続きコメント有難うございます。高杉落ちは毎度暗い感じになりがちですが、雰囲気を楽しんでもらえればと思います...! 見守ってくださると嬉しいです (2021年3月25日 18時) (レス) id: 6533fa6fd3 (このIDを非表示/違反報告)
東雲 晄(プロフ) - お久しぶりです!前作から来ました!晋助夢ありがとうございます!続き楽しみにしてます! (2021年3月25日 17時) (レス) id: 91bd77f472 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アカツキ | 作成日時:2021年3月25日 0時