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「嫌いになんかならへんで」



こぼれた本音を、その大きな手で丁寧に拾い上げるように。

そして、掬い上げたその手で、治くんは私の頬に触れるのだ。

少し肌寒くなった空気なんてお構いなしの温かい手に、体温がぐっと上がった心地がする。


彼は一つ一つ言葉を紡ぐ。かち合った視線は、いつかみたいに私を石にした。


「Aちゃん、ステージ見とったやろ、ちょっと遠いとこから」
「うん、見てた」


唇だけで名前を呼ばれたのは勘違いじゃなかったらしい。
よな、と小さく相槌を打った彼は、その手で私の髪をゆっくりと撫でた。ドキドキと暴れだす心臓の音が脳みそまで揺らした。


「じゃあ、セルフ二番煎じになってまうか」
「え?」


突然降ってきた言葉の意味が分からなくて、思わず目を瞬かせる。
それを理解する前に、治くんは畳みかけるように私に言った。


「俺な、Aちゃんのこと好きやで」
「え? あ、えっ?」


頭が追い付かないというのはこういうことらしい。視線に縫い付けられた体は動いてもくれないし、音を言葉として処理してくれない脳みそはショートしている。


「嘘やないで、ステージの上でやったんとはちゃう」


触れられたところがずっと熱を持っている。

見つめられたところから燃えてしまいそうなくらいに、血液が沸騰してしまうくらいに、なにもかもが、


「……治くん、ずるい」
「勢い余っただけやで、」


仲直りできればそれでよかったんやけど、という声が降ってくる。



「好きや、Aちゃん」



ぐるぐるする頭にすっと落とし込まれる低い声は、私が欲しくてたまらなかったもの。
欲しい気持ちをずっと押し殺していたもの。


「うん、好き、わたしも」


体からあふれてしまうほどの熱を言葉に乗せて、吐き出した。

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(プロフ) - ネオンガールさん» ありがとうございます!よかったです!!! (2018年12月24日 18時) (レス) id: 7dd974e27d (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - Blueさん» そう言っていただけるとこちらとしても非常に嬉しいです!最後までお付き合いいただきありがとうございました(;;)次回作も鋭意準備中ですので、楽しみにお待ちいただけたらと思います! (2018年12月24日 18時) (レス) id: 7dd974e27d (このIDを非表示/違反報告)
ネオンガール(プロフ) - 雛さん» めっちゃキュンキュンしました!!笑 (2018年12月24日 12時) (レス) id: 18c4f82065 (このIDを非表示/違反報告)
Blue - この作品のおかげで治くんがめちゃくちゃ好きになりました。作品の完結おめでとうございます!お疲れ様でした!そして、書いて下さりありがとうございました!次回作も楽しみにしています!! (2018年12月24日 1時) (レス) id: 82a4b13a9b (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 彩兎さん» コメントと労いのお言葉たいへん嬉しいです。恋愛はもちろんですが、食について掘り下げたお話にしたかったので、少食に共感していただけるとこちらも書いた甲斐があるなと思います。こちらこそ最後までお付き合いいただきありがとうございました! (2018年12月24日 0時) (レス) id: 7dd974e27d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作者ホームページ:https://twitter.com/pp__synd  
作成日時:2018年11月4日 17時

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