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「もしもし、」
『Aちゃん、まだ大学おるか』
「うん」
『どこや』
「B棟207」
『B棟の下の……裏のとこまで降りてこれるか』
「いいけど、」
あまりにも唐突で簡潔な言葉に、思わず言葉に詰まる。
降りてこいというのはつまり、今から治くんと対峙しなくてはならないのだ。心臓がにわかに呼吸を取り戻したかのようにばくばくと私の中で暴れだす。
後輩たちの視線を背中に感じながら、スマホを耳に当てたまま教室を出た。
階段を駆け下りるたびにからからと下駄が鳴る。そういえば治くんにはきちんと浴衣見せていなかったことにツムさんがキレてたなあ、なんて思いながら、一階まで降りて、あたりを見回した。
「『Aちゃん』」
電話越しの無機質な声と、直に鼓膜を揺らす声が重なる。視界のまんなかに彼が入り込む。私は通話を切って、浴衣の上に付けたエプロンのポケットにしまった。
講義棟の裏に人なんかいない。ただ事ではない空気に身をすくめ、俯いたまま絞り出した言葉。
「……おめでとう、ミスター」
「おん、副賞が学食一年分無料やねん、嬉しいわ」
どこかぎこちない会話に、すぐにでも逃げ出したくなる。
かける言葉を探そうにも、脳みそは真っ暗でうまいのが見つかってくれない。ただ視線は彼を避けるようにふらふらと泳ぎ始める。
「あのさ、治くん」
顔はまっすぐに見られないけれど、会うことはできたのだ。
ツムさんから課された仲直りをする絶好のチャンスだ。
いや、ツムさんに言われたからじゃない。
私が、仲直りしたいのだ。
あの時こじれた何かを、元に戻したいのだ。
「この前は、ごめん」
「……俺こそ、ごめん」
しおらしい返事に、思わず顔を上げた。初秋の風が彼の灰色の髪を揺らす。らしくもなく弱々しく目を細めた彼に、私まで泣いてしまいそうだ。
「怒らせちゃったかと思って……」
「怒ってへんし、むしろ俺がAちゃんを怒らしたんやないんか」
「そんなことない」
慌てて首を横に振る。大きなひまわりの飾りが揺れた。
「……よかった、治くんに嫌われたかと思った、」
大きく息を吐く。息が詰まっていたのは浴衣の帯のせいだけじゃなかった。
学祭の喧騒を切り離した私たちは、やっと、視線を交えた。
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雛(プロフ) - ネオンガールさん» ありがとうございます！よかったです！！！ (2018年12月24日 18時) (
レス) id: 7dd974e27d (このIDを非表示/違反報告)
雛(プロフ) - Blueさん» そう言っていただけるとこちらとしても非常に嬉しいです！最後までお付き合いいただきありがとうございました(；；)次回作も鋭意準備中ですので、楽しみにお待ちいただけたらと思います！ (2018年12月24日 18時) (レス) id: 7dd974e27d (このIDを非表示/違反報告)
ネオンガール(プロフ) - 雛さん» めっちゃキュンキュンしました！！笑 (2018年12月24日 12時) (レス) id: 18c4f82065 (このIDを非表示/違反報告)
Blue - この作品のおかげで治くんがめちゃくちゃ好きになりました。作品の完結おめでとうございます！お疲れ様でした！そして、書いて下さりありがとうございました！次回作も楽しみにしています！！ (2018年12月24日 1時) (レス) id: 82a4b13a9b (このIDを非表示/違反報告)
雛(プロフ) - 彩兎さん» コメントと労いのお言葉たいへん嬉しいです。恋愛はもちろんですが、食について掘り下げたお話にしたかったので、少食に共感していただけるとこちらも書いた甲斐があるなと思います。こちらこそ最後までお付き合いいただきありがとうございました！ (2018年12月24日 0時) (レス) id: 7dd974e27d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：雛
| 作者ホームページ：https://twitter.com/pp__synd
作成日時：2018年11月4日 17時
