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「Aちゃん、傘持っとる？」
トートバッグを漁りだした私に、治くんが聞いた。
私はその手を止めないまま、彼の方を見て言う。
「折り畳みしか持ってないけど、」
「じゃあ半分くらい入れて」
半分くらいってなんだ、と思ったけど、夕立の延長のような雨を見たら、やっぱり自転車で帰ることは厳しそうで。
私も彼も駅の駐輪場に自転車を置きっぱなしにすることに決めて、小さな傘をさして歩き始めた。
「治くんが持って、でかいから」
「おん」
不可抗力で縮まった距離に、心臓がくるりと一回転。
さっきあんなことを思った矢先にこれだ。
この距離でむしろ無言なのがなんだか気まずくて、お互いの肩が触れるのを意識したくなくて。
しとしとと降り注ぐ雫が傘に打ち付けられる音を無理やりかき消すように言った。
「私ね、外食苦手なんだ」
「またご飯行こう言うたんは社交辞令か？」
「ううん、治くんなら食べてくれるから」
「あー」
私の言葉に、深い納得を示したように治くんは頷く。
「完食できるか心配で、それこそ社交辞令のご飯行こうなんてとっても苦手でさ」
「大変なんやなあ、少食も」
「まあね、あ、でも甘いものは大好きだからほんとに行きたい人とは甘いもの食べに行く」
「別腹はあんねんな？」
ちょっと怪訝そうな顔をした彼が面白くて、つい笑った。
そうかもしれない、と言うと女子ってわからんわあ、なんて漏らして治くんは肩をすくめた。
その拍子に傘の端から雫がぼろぼろと零れ落ちる。
小さな傘で私は濡れていないのが申し訳なかったけれど、それでも私は治くんとこれ以上距離を縮める勇気はなかった。
もしこれで彼が風邪をひいてしまったら、プリンを買ってあげようと思う。
「治くんなら胃袋ブラックホールだから、ちょうどいいかなあって思った。あっえっとちょうどいいって言ったらなんか悪いって言うか、都合がいいという意味で利用したみたいになっちゃうなあ、違うんだけど」
「まあええで、俺もAちゃんとご飯に行けばうまいもんいっぱい食えるから、ウィンウィンやんか」
「……ありがとう、治くん」
先に私が家に着く。
ごめんねという意味を込めて家から普通の雨傘を持ってきて、治くんに渡した。
やっぱり彼の肩はぐっしょりと濡れていて、胸がちくりと痛んだ。
私の勝手なドキドキのせいで距離を詰めるのを躊躇ってしまったことを、少しだけ後悔した。
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雛(プロフ) - ネオンガールさん» ありがとうございます！よかったです！！！ (2018年12月24日 18時) (
レス) id: 7dd974e27d (このIDを非表示/違反報告)
雛(プロフ) - Blueさん» そう言っていただけるとこちらとしても非常に嬉しいです！最後までお付き合いいただきありがとうございました(；；)次回作も鋭意準備中ですので、楽しみにお待ちいただけたらと思います！ (2018年12月24日 18時) (レス) id: 7dd974e27d (このIDを非表示/違反報告)
ネオンガール(プロフ) - 雛さん» めっちゃキュンキュンしました！！笑 (2018年12月24日 12時) (レス) id: 18c4f82065 (このIDを非表示/違反報告)
Blue - この作品のおかげで治くんがめちゃくちゃ好きになりました。作品の完結おめでとうございます！お疲れ様でした！そして、書いて下さりありがとうございました！次回作も楽しみにしています！！ (2018年12月24日 1時) (レス) id: 82a4b13a9b (このIDを非表示/違反報告)
雛(プロフ) - 彩兎さん» コメントと労いのお言葉たいへん嬉しいです。恋愛はもちろんですが、食について掘り下げたお話にしたかったので、少食に共感していただけるとこちらも書いた甲斐があるなと思います。こちらこそ最後までお付き合いいただきありがとうございました！ (2018年12月24日 0時) (レス) id: 7dd974e27d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：雛
| 作者ホームページ：https://twitter.com/pp__synd
作成日時：2018年11月4日 17時
