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「いただきます」
誰に言うでもなく――強いて言えば生き物や農家に、だろうか、私は手を合わせて、小さく呟いた。
学食の無機質な白テーブルの上に置かれた淡いピンク色のお盆。
その上には、ご飯、麻婆豆腐、味噌汁、水。
一口水に口をつけてから、スプーンで麻婆豆腐を掬った。豆腐にとろとろと絡む餡は、舌をピリリと刺すように辛い。ひき肉が口の中でほろほろ踊る。白米を一口放り込めば、たちまち辛さと中和される。
強く刺すような麻婆豆腐の味と、淡白でマイルドでシンプルな白米が口の中でいいように混ざり合うのを感じて、ゆっくりと嚥下した。
味噌汁の椀に手を掛けたところで、会計の方から宮治が歩いてくるのが見える。
椀を左手に、箸を右手に、私は顔だけを上げて私に手を振った彼にお疲れ、とだけ声をかけた。
「お疲れ、Aちゃん」
治くんは淡いグリーンの盆を私の真正面に置いて、椅子を引く。
特に誰も来る予定もないし、私も食べ始めたばかりだし、彼がさも当たり前のように私の目の前に腰を下ろすのにも特に違和感を抱かなかった。
いただきます、と手を合わせた彼の盆の上には、これでもかというほどの皿が乗っていた。
白米は私が一番小さい茶碗なのに対し、彼のは一番大きな茶碗。
私の麻婆豆腐はハーフサイズだというのに、彼の盆には通常サイズの麻婆豆腐と、おまけにハーフサイズの唐揚げまで乗っている。
ダメ押しでぶりの照り焼きとポテトサラダの小鉢付きだ。
私と同じなのは水と味噌汁くらいだった。
「相変わらず食べるね、治くん」
「Aちゃんが食べなさすぎなだけやろ、その米とか何や、Sサイズか」
「SSサイズ」
「そんなん近似してゼロやん」
治くんは目を丸くして言う。
私にとってはゼロじゃないんだけれど。
ピリ辛く舌を刺す麻婆豆腐とそれを中和する白米を交互に口に運びながら、私はすごい勢いで減っていく彼の皿を見つめた。
私の方が少ないし先に食べ始めたのに、私と彼がごちそうさまと手を合わせたのはほとんど同時だ。
「あー美味かった」
あんな量を掃除機かあるいはカービィか何かのようにペロリと平らげた彼の胃袋は底が知れない。
彼と知り合ってまだ二カ月ほどだが、彼の大食いに驚かされるのは何度目になるか分からなかった。
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雛(プロフ) - ネオンガールさん» ありがとうございます!よかったです!!! (2018年12月24日 18時) (レス) id: 7dd974e27d (このIDを非表示/違反報告)
雛(プロフ) - Blueさん» そう言っていただけるとこちらとしても非常に嬉しいです!最後までお付き合いいただきありがとうございました(;;)次回作も鋭意準備中ですので、楽しみにお待ちいただけたらと思います! (2018年12月24日 18時) (レス) id: 7dd974e27d (このIDを非表示/違反報告)
ネオンガール(プロフ) - 雛さん» めっちゃキュンキュンしました!!笑 (2018年12月24日 12時) (レス) id: 18c4f82065 (このIDを非表示/違反報告)
Blue - この作品のおかげで治くんがめちゃくちゃ好きになりました。作品の完結おめでとうございます!お疲れ様でした!そして、書いて下さりありがとうございました!次回作も楽しみにしています!! (2018年12月24日 1時) (レス) id: 82a4b13a9b (このIDを非表示/違反報告)
雛(プロフ) - 彩兎さん» コメントと労いのお言葉たいへん嬉しいです。恋愛はもちろんですが、食について掘り下げたお話にしたかったので、少食に共感していただけるとこちらも書いた甲斐があるなと思います。こちらこそ最後までお付き合いいただきありがとうございました! (2018年12月24日 0時) (レス) id: 7dd974e27d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雛 | 作者ホームページ:https://twitter.com/pp__synd
作成日時:2018年11月4日 17時