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「っは、」


 呼吸が荒い。体中を変な汗が濡らしている。俺はスウェットの袖で汗を拭って、毛布を蹴飛ばした。


「――なんや、夢か」


 大きく息を吐きだした。やたらと鮮烈に脳裏に焼き付いた彼女の最期が、俺の心臓をどくどくと鳴らしている。今何時かと枕元の目覚まし時計を見たら、いつも起きる時間の十分前だった。まだ片割れは寝ているらしい。俺は音をたてないようにベッドを降りた。

 不気味な夢を見たせいで、頭がぐらぐらと揺れていた。今にも吐きそうで気持ち悪い。壁に手をつきながら廊下を歩いて、冷蔵庫の中で冷えていた麦茶をコップに注ぎ、一気に喉奥に流し込む。冷たいのが体の中を伝うのを感じて、何度か瞬きをする。やっとちかちかとした視界が元通りに戻ったとき、片割れが俺に声をかけた。


「どないしたん、侑」


 コップをシンクに置いて、俺は眠そうにポリポリと腹を掻く片割れを見やる。


「きもっちわるい夢見たんや」
「へぇ」


 自分が聞いたくせに、返事は適当だ。他人事だと思って。まあ俺が治でも同じような返事をしていただろうが。治が俺の話を聞いてるのか聞いてないのかよくわからない相槌で聞き流すのはいつものことだから、俺は吐き出すことにした。


「クラスの女子が俺の目の前で屋上から飛び降りて死ぬ夢。ほんっとに俺の心は何を訴えとんねん」


 夢を見るのは深層心理のせいだとはよく言うけれど、どうして死んだのが小松Aだったのかもわからないし、彼女が屋上から飛び降りた理由も分からない。

 夢は起きた直後から次第に薄れて行って、しまいには「夢を見たこと」しか覚えていない、というのは本当によくあること。

 俺はもう夢の中で見たことを少しずつ忘れ始めていた。彼女が飛び降りたことと、最期に見せた鮮烈で不気味な笑顔は、はっきりと覚えていたけど。

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作者名: | 作者ホームページ:https://twitter.com/pp__synd  
作成日時:2018年11月1日 16時

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