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「夜久、すき!」
怖かったけど、なんだか大丈夫な気がした。
きっとこのデートだって、絡めていた指だって、このひと気のない海だって、互いが今身に纏っている制服だって、全部全部、夜久がわたしと同じ気持ちであることの証明だから。
わたしはもう一度だけ、今度は叫んだ。波のように揺らめくわたしの心は、聞こえて欲しい気持ちと、聞こえてほしくない気持ちとがせめぎ合っていた。
半年間淡いまま続いたこの関係が急に変わってしまうのが怖い気持ちと、もう何もわたしたちを邪魔するものはいないという気持ちと。
「何か言ったぁー?」
向こうから声が返ってきた。
わたしが何か言っているのは聞こえたんだろうが、何を言ったかまでは聞こえてないみたいだった。それならそれでいい。
「何でもなぁーい!!」
わたしはそれだけ言うと、砂浜に上がって夜久の方へ駆け出した。濡れた足の指に砂がまとわりついてくるのは気にならない。
世界にわたしと夜久と二人だけのような気分で、するすると滑る砂の上を走る。
声に出したら少しすっきりした。きっとなるようになる。
このぐちゃぐちゃした気持ちはちょうど水平線で混ざりあう青色に似ていた。
「夜久ー! 楽しいねー!」
そう言いながら、海を見ていた夜久の腕を掴む。夜久はわたしの言葉に返事をせず、ずっと海の向こうを見ていた。
「……夜久?」
動かない彼の横顔を見つめる。その大きな瞳がわたしを一瞥した。
その瞳がどこか不思議な熱を孕んでいるように見えるのは気のせいだろうか。
しかし夜久はまた黙り込んだまま海の方を向いた。そっと掴んでいた腕を離す。
わたしたちの呼吸と、波のさざめきとだけが響いていた。
「ねえ、夜久」
わたしの声の残響がゆっくりと波に溶けた時、夜久がやっと動いた。
わたしの手を掴み、指を絡めて息を吸って。
「俺も好き!」
「え、」
聞こえてたの、というわたしの声は波に消されたけれど、張り上げた夜久の声は確かに私の耳に届いた。
「夜久、なんで!」
「お前普通に叫んでただろ」
「でも『なんか言った?』って」
「あはは!」
「ちょっと!」
「俺も好きだからいいじゃん!」
「ばか!」
わたしの変な叫び声と、夜久の楽しそうな笑い声が波打ち際に響く。
彼は驚くわたしの手をいつまでも離してくれなかった。
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@でに(プロフ) - 恋すてふ制服 とてもおもしろかったです……きゅんきゅんしました! (2020年4月24日 17時) (レス) id: c5f18c8481 (このIDを非表示/違反報告)
雛(プロフ) - 華ノ子さん» コメントありがとうございます。一年以上経ってしまいましたが、本日追加いたしましたのでご覧いただけたら嬉しいです。 (2020年4月23日 23時) (レス) id: b56c38f9b7 (このIDを非表示/違反報告)
ティラミルク(プロフ) - 何回読んでも大好きです。 (2019年10月28日 19時) (レス) id: 936ff86ce1 (このIDを非表示/違反報告)
花籠(プロフ) - めっちゃ面白かったです!!エモエモでした!短編なのに一本の愛がをみた気分になりました!お疲れ様です。 (2019年10月24日 18時) (レス) id: 270ba45bd9 (このIDを非表示/違反報告)
華ノ子(プロフ) - おもしろかったです。制服最後の日の物語はありますか…? (2019年1月17日 1時) (レス) id: ed7dadd27f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雛 | 作者ホームページ:https://twitter.com/pp__synd
作成日時:2018年12月26日 12時