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小指を絡めた ページ18





「Aはどこの大学に行くの」


そう聞いた夜久の視線は、車両の中の広告のうちの一つにあった。どこかの私立大学の広告だ。

その問いに、さっきまでは心の隅に追いやられていたはずの受験が、急に質量を持って私に襲い掛かる気がした。


「滑り止めの私立も国立も全部東京のままだよ」
「そっか、俺と同じだ」
「夜久も?」
「うん」


それからぽつりぽつりと言葉を交わした。
さっき芝生で空を見ていた時は夜久のバレーの話ばかりだったけれど、今度はわたしの受験の話。

たまりにたまった鬱憤を少しだけ晴らさせてもらった。

バレーで推薦を取って大学に行く彼は、受験勉強とはそこまで縁がないらしい。

ほんの少し羨ましかったが、その分彼は死ぬ気でバレーをやっているのだろうと思うと、そう簡単に羨ましいなんてことも言えなかった。


大学生になったら何のサークルに入りたいだとか、どういう研究がしたいだとか、将来の夢は何か、とか、髪は染めたいか、とか。
そう遠くない未来の話に花を咲かせたわたしたちは、もうすぐ大学生になってしまう。
それは嬉しいようで、少しだけ寂しい。



おしゃべりをしていれば、あっという間に練馬まで戻ってきてしまった。
改札をくぐれば、見慣れた街の風景が広がった。
音駒はうちに帰る途中にある。

バスに二人連れだって乗り込んだあと、二人掛けの座席を見てわたしは奥に座った。


ゆっくりと動き出したバスで、わたしたちは無言だった。

ただ窓の外を見つめる私と、その手を捕まえている夜久。


この心音は背徳感なのか高揚なのか、それとも。


そんなの分かり切っていた。
けれど、夜久に向かって言葉にするのはまだ先だ。
それこそ、冬服最後の日にデートする、その時にでもいい。


バスのアナウンスが音駒に着いたことを告げた時、わたしの手を包んでいた熱はほどけた。
立ち上がった夜久は、少し寂しげな瞳でわたしを見下ろしていた。


「ありがとう、楽しかったよ、悪い子」
「おう、俺も楽しかった」


そんな寂しい顔をしないで、と、わたしも寂しいのをこらえて無理やり笑顔を作る。
二人で笑いあったあと、わたしは小指を夜久の方に差し出した。




「冬服最後の日──いや、制服最後の日、またデートしよう」
「絶対な」




しっかりと絡まった小指が離れたら、わたしはまたいい子に戻ろう。

さよなら盛夏服→←・



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@でに(プロフ) - 恋すてふ制服 とてもおもしろかったです……きゅんきゅんしました! (2020年4月24日 17時) (レス) id: c5f18c8481 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 華ノ子さん» コメントありがとうございます。一年以上経ってしまいましたが、本日追加いたしましたのでご覧いただけたら嬉しいです。 (2020年4月23日 23時) (レス) id: b56c38f9b7 (このIDを非表示/違反報告)
ティラミルク(プロフ) - 何回読んでも大好きです。 (2019年10月28日 19時) (レス) id: 936ff86ce1 (このIDを非表示/違反報告)
花籠(プロフ) - めっちゃ面白かったです!!エモエモでした!短編なのに一本の愛がをみた気分になりました!お疲れ様です。 (2019年10月24日 18時) (レス) id: 270ba45bd9 (このIDを非表示/違反報告)
華ノ子(プロフ) - おもしろかったです。制服最後の日の物語はありますか…? (2019年1月17日 1時) (レス) id: ed7dadd27f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作者ホームページ:https://twitter.com/pp__synd  
作成日時:2018年12月26日 12時

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