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「A!」


夜久が少し離れたところでわたしを呼んだ。
振り向けば、カシャリと乾いた音が響く。


「……えっ、今撮った!?」
「撮った!」
「なにそれ!」


向けられたスマホを軽く睨めば、ごめんという謝罪が飛んでくる。
砂の上をさりさりと歩いて夜久の手元を覗いたら、顔だけこちらを見たわたしが海を背景にして写っていた。


「あ、これ結構いいじゃん、あとで送って」
「だろ、なんか撮りたくなったんだよ」
「そりゃどうも」


インスタのアイコンにでもなりそうな写真だ。
まあ受験生のわたしはインスタに載せるほど華々しい生活をしているわけじゃないけれど。

満足そうにわたしとのトークルームに写真を送った夜久は、スマホをポケットにしまって海の方を見た。


「ここ、いいなあ」
「穏やかだね」


静かな海を見ていたら、なんだか時間がゆっくりと流れているように感じる。
いっそこのまま時間が止まってしまえばと、ほんの少しだけ思った。

夜久と二人、静寂と潮騒に切り取られたこの砂浜で、いつまでも穏やかな海を眺めていたいと思った。


それ以上わたしは何も言わずに、夜久も何も言わないまま、二人でぼうっと海の向こうを見つめていた。何度わたしたちの足を波が洗ったか分からないくらいになったころ、夜久がぽつりと漏らした。


「……Aは、」
「え?」
「制服デートでいいの、これ」


その話がまさか蒸し返されるとは思っていなかったが、確かにわたしが明白な答えを返した記憶もなかった。

青の境界線を眺めながら、逡巡する。

気を抜いたら好きになってしまいそうだ、なんて思っている時点で負けなのかもしれないけれど、まだ取り返しのつく淡さだろう。
だから、これ以上夜久が男だということを考えたくない。

そう思ったのに、頭で考えていることとはちがう言葉が唇から零れ落ちた。


「いいよ、デートで」

・→←青の境界に溶ける



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@でに(プロフ) - 恋すてふ制服 とてもおもしろかったです……きゅんきゅんしました! (2020年4月24日 17時) (レス) id: c5f18c8481 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 華ノ子さん» コメントありがとうございます。一年以上経ってしまいましたが、本日追加いたしましたのでご覧いただけたら嬉しいです。 (2020年4月23日 23時) (レス) id: b56c38f9b7 (このIDを非表示/違反報告)
ティラミルク(プロフ) - 何回読んでも大好きです。 (2019年10月28日 19時) (レス) id: 936ff86ce1 (このIDを非表示/違反報告)
花籠(プロフ) - めっちゃ面白かったです!!エモエモでした!短編なのに一本の愛がをみた気分になりました!お疲れ様です。 (2019年10月24日 18時) (レス) id: 270ba45bd9 (このIDを非表示/違反報告)
華ノ子(プロフ) - おもしろかったです。制服最後の日の物語はありますか…? (2019年1月17日 1時) (レス) id: ed7dadd27f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作者ホームページ:https://twitter.com/pp__synd  
作成日時:2018年12月26日 12時

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