・ ページ2
・
「今日ちょっと寒くない？」
「天気はいいけどね」
急に秋めいた空気に、わたしも思わず両手で腕をさすった。
わたしの隣に立った夜久も、夏服だ。
白い半袖のシャツからは鍛えられたらしい腕が伸びていて、肘にはすりきずのあと。
バレー頑張ってるんだなあ、なんて思いながら、二人並んでバスを待つ。
「まだ夏服？」
わたしの盛夏服を一瞥して、彼は聞く。
リボンすらもついていない寂しい胸元を見下ろしながら答えた。
「今日が最後」
わたしはこの盛夏服が好きじゃない。
冬服は本当に可愛らしいデザインなのに、夏になると急激にださくなる。
だからこの制服でやたら出歩くことも避けてきたのだけれど。
最後って口に出した途端、もう少し着ていたいかも、と思ってしまった。
「一緒だ、俺も今日が最後」
締めたネクタイに触れながら、夜久が笑った。
そっか、と相槌を打つと、夏の終わりがすぐそこまで迫っていることに気づく。
重たい音を立てながら走ってきたバスを見て、リュックにぶら下げている定期を手に握った。
「……お前、今日なんか大事なことある？」
「え？ 特にないと思うけど……」
強いて言うなら英語の小テストくらいだろうか、でもそれって別に取るに足りないことだろう、そんな咄嗟の思考に結論をつける前に、彼はわたしの手を引いて、わたしがバスに乗ろうとしたのを遮った。
思わず立ち止まるわたしに、動かない夜久。
無情にも目の前で閉まったバスの扉は、ぷしゅうと小気味いい音を立てた。
呆気にとられたまま発車したバスを見送るわたしを見て、夜久がまるでいたずらが成功した子供みたいに笑う。
「今日くらい、悪い子になっちゃおうぜ」
「悪い子、」
深くも考えずに彼の言葉を繰り返してから、その意味を飲み込んだ。
「……どう？ 一緒にサボって遊ばない？」
その特徴的な眉をきゅっと上げて、わたしを見下ろす夜久の目は、わたしを頷かせる気満々だ。
いつものバスを逃したわたしに出された選択肢。
不便すぎる乗り換えの接続に文句をつけながら遅刻するか、夜久の誘いに乗ってさぼって遊びに行くか。
なんだそれ、どっちも悪い子じゃないか。
どうせ悪い子になるのなら、いっそはっちゃけてみようか。
「遊ぶ！」
校則をしっかり守ってポニーテールにしていた髪のゴムを、一気に引っぱる。
はらりとほどけた髪が秋の風に揺れ、わたしの盛夏服の上にこぼれた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 160人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ハイキュー」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
＠でに(プロフ) - 恋すてふ制服 とてもおもしろかったです……きゅんきゅんしました！ (2020年4月24日 17時) (
レス) id: c5f18c8481 (このIDを非表示/違反報告)
雛(プロフ) - 華ノ子さん» コメントありがとうございます。一年以上経ってしまいましたが、本日追加いたしましたのでご覧いただけたら嬉しいです。 (2020年4月23日 23時) (レス) id: b56c38f9b7 (このIDを非表示/違反報告)
ティラミルク(プロフ) - 何回読んでも大好きです。 (2019年10月28日 19時) (レス) id: 936ff86ce1 (このIDを非表示/違反報告)
花籠(プロフ) - めっちゃ面白かったです！！エモエモでした！短編なのに一本の愛がをみた気分になりました！お疲れ様です。 (2019年10月24日 18時) (レス) id: 270ba45bd9 (このIDを非表示/違反報告)
華ノ子(プロフ) - おもしろかったです。制服最後の日の物語はありますか…？ (2019年1月17日 1時) (レス) id: ed7dadd27f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：雛
| 作者ホームページ：https://twitter.com/pp__synd
作成日時：2018年12月26日 12時
