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「……ピ……ッ……！ねぇ！ショッピ！大丈夫？」
「えっ、」
呼び掛けにﾊﾟｯっと目を開けると白い日傘をさした彼女のコバルトブルーの瞳が、俺を見つめていた。
「もぅショッピったら春の風が気持ちいいのは分かるけど立ったまま寝ちゃだめだよ？」
不思議そうな顔で俺を見つめる死んだはずの彼女は、そう言って俺の頬をﾂﾝﾂﾝと触れながら笑顔を見せた。
なんでAが？夢…？いやそれならなんで春の香りやAに触れられている感覚がする？
そっとAの手首を掴み顔を近づければ、すぐ顔が真っ赤になるのも全て自分の愛した彼女そのものだ。
「電車……」
「え？電車…？
あー、冬にあった電車事故のこと…？遮断機の故障が原因だっけ？ あれ怖かったね。誰も被害に合わなかったから良かったけどさぁ」
「え？あっ、そうやったな…」
誰も被害に合わなかった？ あの日確かに彼女は死んだはず。五感が機能しているということは夢じゃない事故も別の事件として処理されている。
混乱する俺の頭の中に思いついたのは、いつの日か理論物理学について調べていた彼女が熱弁していた平行世界の存在。
俺はあまり興味がなく彼女には悪いが聞き流していた故にあまり覚えてはいないが、片方の世界で人が死んでも並行軸にあるもう片方では生きている。パラレルワールドなんても呼ばれる部類の話。
ここが平行世界と仮定するなら俺は何かしらが原因で平行世界の未来と干渉しているのだろうか。干渉しているのならいつか現実に戻る時も来るのだろう。それでもいい目の前にいるかわいい彼女を目に焼き付けたい。
「A」
「ぅん？」
もう呼んでも返事が来ないと思っていた呼び掛けに応えてもらえることだけでも俺の頬は緩みそうになる。桜並木の中で隣を歩く背の低い彼女が俺を見上げてくる視線が好きだ。
「かわいい」
「ありがとう！」
褒めると上機嫌になってニコニコと笑顔を浮かべて俺の腕に抱き着いてくるAが好きだ。
「かわいい。すき。Aほんと大好き」
俺は衝動的に言葉を紡ぐ。そして彼女を壊さないように忘れないように全身で抱きしめると、手に持っていた彼女の日傘が手から落ちて春の風が桜の花びらと共に日傘を空へと攫った。
「今日のショッピは素直だね？私も世界一優しくてかっこいいショッピが大好きだよ」
弱い力でいっぱい抱きしめ返してくれる彼女は幸せだなぁと俺の腕の中で呟いた。
暖かい彼女の体温は穴の空いた俺の心を満たしてゆく。
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