〈prequel〉恋みたいな ページ49
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クラス替えをしてぐるっと教室を見渡した時に、なんとなく気になった子が居た。
窓際で静かに本を読んでいる姿はなんか一枚の静止画のように見えて見蕩れていると、急にパチンと目が合った。
――俺に全然興味なさそうな目だ
狩りにくい餌は本能で分かる。透明な目が俺の体をすり抜けていく感じ。
でも、何故か俺の中ではざわりとした感情が胸の奥の方で蠢いた。
「いー匂い」
化粧品もボディクリームも付けていない生の肌から立ち上る甘い、赤ちゃんのような、傷口のような、そんな柔らかないい香り。
きっと飼料がいいんだな。だって、雑食の女の血はどこか生臭くて美味しくない。
その話をナムジュン先輩にすると、呆れたような顔をされた。
「噛むなよ」
「分かってますよ」
「色々面倒になるからな」
「はーい」
吸血鬼になると恋愛感情が消える。繁殖に異性を必要としない生き物に、恋愛ホルモンは必要ないからだ。
それをわかっているのか、詮索するような事は言われない。
だけど、久しぶりに疼いた本能に釘を刺される。
「……とりあえず、来週に来る台風が心配だな」
「どうしてですか?」
「お前だって、輸血パックが切れたら大変だろ」
「あ〜そっか」
医療機関等に潜伏する人外たちから提供される食料は、俺みたいな偏食の人外には文字通りの生命線だから。
そういえば、あとどのくらいあったっけ。まあ、多分大丈夫だろうけど。
「あの子、俺と友達になってくれないかなあ」
「……言えばいいんじゃないか? 素直に」
「うーん、でも、嫌だって言われそう」
「珍しいな、お前が怖気付くなんて」
確かに、どうして怖いんだろう。
思い返すと不思議だった。でも、あの子はきっと俺に興味がない。というか、誰にも興味がない。
ああして教室で静かにしていて、学校生活が通り過ぎるのをひたすら待っているだけなんだろう。
人間の一生なんて、とても短いのに。
「テヒョン」
「ん? なんですか?」
「……なんかそうしてると、恋愛でもしてるみたいじゃないか?」
柔らかく微笑んだナムジュン先輩にそう言われて、俺は少しおかしかった。
「俺は吸血鬼ですよ?」
「執着するなんて珍しいから」
「だってあの子、マジでいい匂いなんですよ!」
多分あれは俺みたいな吸血鬼にしか分からないんだろうな。
あの匂いを嗅ぐと、すごく幸せな気持ちになれるのに――
――なんて話をしていたその一ヶ月後、すっかりお腹を空かせた俺の前にAが現れるのである。
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sai(プロフ) - のんさん» はじめまして、コメント&読了ありがとうございますー! 番外編もちょいちょい書きますので、また読んでください´`* (2019年9月14日 23時) (レス) id: 00e0a369b0 (このIDを非表示/違反報告)
のん(プロフ) - 初めまして。楽しく読ませていただきました。完結してしまって…しばらく吸血鬼ロスでした。番外編嬉しいです!楽しみにしています! (2019年9月14日 19時) (レス) id: 94dc845851 (このIDを非表示/違反報告)
sai(プロフ) - チョコさん» 完結までお付き合いいただいてありがとうございまーす!その後の進展(?)した二人も書きますね〜!読んでくださってありがとうございました! (2019年9月10日 12時) (レス) id: 00e0a369b0 (このIDを非表示/違反報告)
sai(プロフ) - AULA−輝きさん» ストーリーがダラダラしそうで大分(他メンのエピソードとか)色々削ったので、ぼちぼち番外編てやりたいですね〜!ジミンちゃんの今的なやつもやってみようと思います^^ (2019年9月10日 12時) (レス) id: 00e0a369b0 (このIDを非表示/違反報告)
チョコ(プロフ) - わぁ〜!完結しましたね!今回は推しということもあり楽しませていただきました!続編、見たいです!!基本的には作者さんにお任せですがやっぱりデートシーンみたいなのはほしいです笑笑 (2019年9月10日 1時) (レス) id: 58e918a46e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:sai | 作者ホームページ:https://twitter.com/xxx___sai/
作成日時:2019年8月29日 11時