45.君は知る由もない〈side TH〉 ページ45
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Aを追いかけて途中進路を変え、ノルウェーの地に辿り着いた時、俺は絞首刑を待つ囚人の気持ちが分かった気がした。
蘇る記憶の中のジミンは輪の中に入るとすぐに光の粒になってしまって、最後に言った「ごめん」という言葉が残響のように響いていた。
「まだ生きてる」というユンギ先輩の言葉に逸る気持ちをが抑えきれず、あの山へと駆け出した。
「A!」と叫んでも、広大な空間に溶けて消え、小さな小さな人影に聞こえているのかも分からなくて。
ドクドクと巡る血と上がる呼吸なんかお構い無しで夢中で駆け上がった。
――A、行かないで、行かないで!
多分そんなことしか言えなかったと思う。
もっと色々言いたいこともあったのに、今はただ行かないでとしか言えなくて。
「A!」
俺、Aに行かないで欲しいんだ。一人でずっと生きていくのは怖いんだ。
Aは俺を困ったような顔で見ているばかりで、一度も笑ったことなんてないけれど、最後には呆れた顔で許してくれるから。
永遠を生きるなら、楽しいことばかりがいい。楽しい今を積み重ねて、少し経った後に誰かと「楽しかったね」って話をしたい。
そして、話す相手がAなら、もっといいと思った。
でも、永遠の命を持つ吸血鬼では、すごく難しいことだってことも分かってる。
「A!」
ようやく表情が見えるくらいまで近づくと、ようやく二人が此方を振り返った。
そして、Aはやっぱり困ったような顔で俺を見て……――そして微かに笑った。
「……っ」
初めて見たAの笑顔はなんだか切ない色を帯びていた。儚くて消えそうな……いや、それは元からAが持っていた空気だ。
なんでそんなに泣きそうな顔で笑うんだろう。
ぎゅっと心臓を掴まれるような心地で、一瞬だけ頭が真っ白になる。
走る足は止めないまま、不思議な感覚を掴みあぐねていると、遠くに居たAがソクジン先輩を崖の下へと突き落とすのが見える。
「えっ……」
そして、もう一度此方を見たAは一気に走り出すなり「テヒョン!」と名前を呼んだ。
何度もつまづきながら俺の方へと走ってくるAに手を伸ばすと、暖かくて柔らかい体が倒れ込んでくる。
「――帰ろう! ソクジン追ってちゃうから!」
いいの? と躊躇いがあった。
Aは俺と一緒に帰ってくれる、あの生活へと戻れるってこと。
それが、俺にとってどんなに嬉しいことなのか、Aはきっとわからないんだろう。
46.今日から吸血鬼 end.→←44.少し素直になってみました
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sai(プロフ) - のんさん» はじめまして、コメント&読了ありがとうございますー! 番外編もちょいちょい書きますので、また読んでください´`* (2019年9月14日 23時) (レス) id: 00e0a369b0 (このIDを非表示/違反報告)
のん(プロフ) - 初めまして。楽しく読ませていただきました。完結してしまって…しばらく吸血鬼ロスでした。番外編嬉しいです!楽しみにしています! (2019年9月14日 19時) (レス) id: 94dc845851 (このIDを非表示/違反報告)
sai(プロフ) - チョコさん» 完結までお付き合いいただいてありがとうございまーす!その後の進展(?)した二人も書きますね〜!読んでくださってありがとうございました! (2019年9月10日 12時) (レス) id: 00e0a369b0 (このIDを非表示/違反報告)
sai(プロフ) - AULA−輝きさん» ストーリーがダラダラしそうで大分(他メンのエピソードとか)色々削ったので、ぼちぼち番外編てやりたいですね〜!ジミンちゃんの今的なやつもやってみようと思います^^ (2019年9月10日 12時) (レス) id: 00e0a369b0 (このIDを非表示/違反報告)
チョコ(プロフ) - わぁ〜!完結しましたね!今回は推しということもあり楽しませていただきました!続編、見たいです!!基本的には作者さんにお任せですがやっぱりデートシーンみたいなのはほしいです笑笑 (2019年9月10日 1時) (レス) id: 58e918a46e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:sai | 作者ホームページ:https://twitter.com/xxx___sai/
作成日時:2019年8月29日 11時