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29.弱いところ ページ30

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お風呂を上がると、ジミンは上機嫌で私の髪を乾かそうとしたので、いよいよ私は怒ろうと思った。
だけど、一瞬で体に力が入らなくなったので、驚く。


「……体、動かない」
「ふふふ」
「やめてよ」
「だって、こうしてないとAちゃん嫌がって逃げそうなんだもん」
「う〜っ」
「喋れるだけすごいよ、さすが半吸血鬼」


憎まれ口は辛うじて叩けるけど、体は動かないし頭もぼんやりしている。
タオルとドライヤーでやけに丁寧に髪を乾かされていく。


「楽しそうだね」
「楽しいよ。僕、結構こういうの好きなんだ」
「ふうん……」


濡れた髪がサラサラとしなやかさと軽さを取り戻していく。頭皮や首筋にジミンの指が通っていくのがくすぐったかった。

こういうのが好き、と言うだけあって確かに上手だ。
もしかしたら、人間だった頃はこの指先のように柔らかい人だったのかもしれない。
こんな風に、テヒョンにも接していたんだろうか。
まあ、テヒョンなら世話の焼き甲斐もあるだろう。

「よし、おわり!」満足そうな声が聞こえる。結局一通り気の済むようにさせて、最後はよいしょ、という掛け声とともにベッドにまで運ばれてしまった。


「なんでベッドに入ってくるの?」
「いいでしょ?」
「よくないでしょ」


口では抵抗してみせても、動かない体をいい事にジミンはモソモソと布団へ入ってくる。
腕が触れて肌の感触にゾワリとした。私はあんまり他人の肌の感覚が好きじゃないから。


「嫌そうな顔してる」
「そういうジミンは面白がってる顔してるね」
「Aちゃんからかうの、面白いんだもん」


ぼふんと枕に頭を埋めて、楽しそうな顔が私をじっと見つめていた。
見た目だけなら修学旅行とかそういう浮ついたような雰囲気がある。
まあ、実際そんなに可愛いものじゃないけど。


「はあ……」
「諦めた?」
「とりあえず明日まで逃げられないなあとは思った」
「よしよし」


満足そうに頷いて、ジミンはコロリと布団に転がる。
私はジミンに背中を向けて、聞こえないくらいの小さな溜息を吐いた。

ああ、このまま明日が来ちゃう。
明日が来たら、私はどんな目に遭うんだろう。

結局何も出来ないままの私がそこに居た。
一人で何も出来ないまま、こうして他人に流されるだけの自分が情けない。
まだ、何処かでテヒョンが助けに来るんじゃないかと期待している自分はもっと、情けなかった。

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作者名:sai | 作者ホームページ:https://twitter.com/xxx___sai/  
作成日時:2020年7月16日 18時

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