28.期待する人、しない人 ページ29
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これは、もうテヒョンとジミンの間で解決してもらうしかない。
脱出作戦に六度目の敗北を喫した私の結論はこうだった。
ちょっと死ににくくて血液が美味しい程度の私では、天井で二十四時間見張ったり体をコントロール出来る魔王には敵わない。
「本当に詰んでる……」
部屋に付いてるお風呂にちゃぽんと浸かり、大きな溜息を吐いた。
三十分前から城中にゾンビが溢れかえっていて、なにをしているのかと思いきや、パーティの準備をしていた。
食材やら装飾やらを運んでいるゾンビの顔色は灰色だけれども、なんとなく焦っているのは分かる。
忙しそうにされてしまうと、私の身の置き所も無くしてしまう訳で。
仕方なく手持ち無沙汰にお風呂に浸かることにしたのだ。
「いや、ここで諦めたら試合終了だよ……愛のない結婚……テヒョン死亡エンド……慣れないスイス生活の始まり……迷宮入りの誘拐事件」
ブツブツと念仏のように独り言を漏らしていると、ジミンの笑い声が天井から聞こえてきた。
「……覗かないで」
「いや、ごめんね。でもAちゃん面白すぎて僕もうダメ」
「こっちは割と必死なんですけどね」
「真剣だから面白いんだって!」
ハハッと快活な笑い声を一頻り上げた後、ジミンはゆらっと靄のように浴室へと姿を現したので驚いた。
「ちょっと!」
「大丈夫。何にもしないって。ほら、僕達そーゆー感情なくなってるし」
「そっちは良くても私が良くないの」
咄嗟に浴槽で体育座りをする。吸血鬼って全員常識をどっかにやってるに違いない。
「そろそろ諦めて僕のお嫁さんになりなよ」
「……私は自分の結婚相手くらい自分で決める」
「わあ、現代っ子っだね」
「そっちは時代遅れだよ」
こんな軽口染みた非難ではどうにもならないことは分かっているけど、私は顔を顰めずにはいられなかった。
「――やろうと思えば、無理矢理僕に従わせることだって出来るんだからね」
ニコッと笑みを浮かべたジミン。
流石の魔王様。貫禄勝ちだと思った。
「……じゃあ、さっさとそうすればいいじゃん」
負け惜しみのように呟くと、ニコッとジミンは笑う。
「しないよ。まだね」
「ハイハイ。テヒョンを泣かせたいんでしょ」
「楽しみだな〜」
愉快そうに笑うジミンとは裏腹に、私はほの暗い気持ちが滲んでくるのが分かった。
もし、テヒョンがジミンと再会したら、私の事なんかすっかりどうでも良くなっちゃうかもしれない……と。
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作者名:sai | 作者ホームページ:https://twitter.com/xxx___sai/
作成日時:2020年7月16日 18時