21.お嫁サンバ ページ22
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「――いや、だって、結局私は二人の事情には関係ない訳ですし」
テヒョンの過去についてはチョロっと聞いただけで、私は半吸血鬼になって二年のペーペーだ。
突然現れたゾンビに自宅を荒らされ、よく分からない洋風の城に連れてこられ、結局はキム・テヒョンという人騒がせな吸血鬼が諸悪の根源だと聞かされるこっちの身にもなって欲しい。
そういう意味でジミンを睨めつけると、カラカラとした笑いが返ってきた。
「アハハ、面白いねAちゃん! ヒョンから聞いた通りだ!」
笑い方は幼児の頃と変わらずあどけないんだなあ、と私は思った。
だが、気は抜けない。どうにも油断出来ないジミンの存在に、私は慎重だった。
だって、"詳しく話を聞いたら、私はもう逃げられない"のだから。
「そんなに警戒しないでよ。大丈夫。捉えようによっては僕は君の味方だし、結果的には君が一番得するかもしれないんだし」
「……得?」
「だって、君はテヒョンのせいでこんなことになってるんでしょ?」
……なるほど、と私は脳裏で呟いた。
さっきから薄らと感じる敵意の矛先はどうやらテヒョンにあるらしい。
そして、これ以上聞いてしまったら私は"事情を詳しく聞く"事になる。
そうなると後には引けない。ここは慎重になるべきだと思った。
だから、「いや、だから、私は二人の事情には関係ないんですってば」と敢えて突っぱねるような物言いをしてみたけど、ジミンは困ったように笑った。
「そうだね。関係ないとは思うよ?」
「無理矢理関係者になるのは嫌です」
「う〜ん、でももう関わっちゃったんだよね」
「……へ?」
「君が此処に来てる時点でもう始まっちゃってるの」
いや、いやいや。この人最初から私を逃がしてあげるつもりなんてない。
嫌な予感がビシビシと背中を這うのを感じた。
「……一体、私に何をさせるつもりなんですか?」
諦めてそう問うことにすると、心底愉快そうにジミンは笑った。
「――Aちゃんにはさ、僕のお嫁さんになって欲しいんだよ」
「………………は?」
素っ頓狂な声が唇から零れるのを止められなかった。
お嫁さん? 私が? ジミンさんの? なんで?
「っていうか、吸血鬼って結婚とかする意味あるんですか?」
そもそも婚姻届を提出するような機関もなければ、家庭なんていう概念もない。生殖しないのだから、そういう必要性もない。
吸血鬼っていうのは、そもそも孤独を前提に存在しているものなんだとばかり思っていた。
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作者名:sai | 作者ホームページ:https://twitter.com/xxx___sai/
作成日時:2020年7月16日 18時