10.一方その頃 th ページ11
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ユンギ先輩は「Aは魔王の城にいる」と言い出したので、おれを含めた全員の顔面が蒼白になった。
「A先輩ってトラブルメーカーなんですか?」
「なんでよりによってそうなるんだよってな」
「しかもソクジンさんも一緒とか」
面倒くさい予感しかしない、と手が語っている。
そして、対するおれは落ち込んだ。
「どうしよう……」
「まあ、どっちみちスイスには行かなきゃ行けないんだし」
「命の危険は無さそうだし、とりあえず明日の便で向かうぞ」
ユンギ先輩はそう言って、何故か同情的な目をこちらに向けた。
……何が見えたんだろう。興味はあったけと、聞いたら更に落ち込みそうな気配がして、それ以上は聞かないことにした。
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翌日、早朝の空港へ足を踏み入れると、そこは何故かゾンビだらけ。
キャリーケースを持ったサラリーマンの隣にもゾンビ。チケットカウンターにも、ソファにもゾンビ。
一般人に擬態しているけど、おれ達にはすぐに人外は分かってしまう。
「ホソクは?」
「トイレに行った」
「なんかトイレに……ゾンビ集まってませんか?」
「囲まれてる!」
「助けろ!」
トイレの隅で縮こまって今にも泣きそうなホソク先輩と勢いの余り堕天使の力を使ってしまったナムジュン先輩がヨボヨボした様子で戻ってきた。
「こ、怖かった……」
「一個トイレ壊してしまった……」
「なんでこんなにゾンビが沸いてるんだ?」
「しかもハロウィンシーズンだから微妙に紛れてる感じがムカつくぞ」
唇を尖らせて拗ねるナムジュン先輩は、カリカリした様子でフライト掲示板を見る。
もうすぐでチェックインが始まる。二度の乗り換えを経てスイスに行くことが決まっていた。
十三時間の空の旅だった。
「――なんていうか、ゾンビに監視されてる気がします」
ポツリとジョングクがそう零す。確かに、チラチラとゾンビからの視線を感じた。
「俺達が人外だって、あっちも分かってるんだろ」
「……そうですよね」
「なんか引っかかるのか?」
「いや、ゾンビの思考って単純すぎてよく読めないんです」
「飛行機でも一緒かもなあ〜……」
げんなりした様子でソファに凭れたホソク先輩は、頼りなさげに溜息をついていた。
「でも、Aはおれが来るのを待ってる……と思う」
ようやくそう一言だけ呟くと、丸い目をしたみんながおれをじっと見た。
そしてポンポンと肩を叩いてくれる。
「よっしゃ、とりあえずチェックインだ!」
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作者名:sai | 作者ホームページ:https://twitter.com/xxx___sai/
作成日時:2020年7月16日 18時