46.父の記憶の中の私 ページ46
.
――ユンギ、私、贄になるよ
――やめろ
――Aにごめんねって伝えてね
――やめろ！
――ユンギ、大好き
――やめろ！！！！！！
・
・
・
一瞬、駆け巡った記憶の断片の母は、私によく似ていた。
今よりももっと若い祖父達が母に謝る姿。
この村の神様だった頃の父の背中には大きな翼があって、額や手にもあのオパールのような紋様が刻まれていた。
母と父はきっと愛し合っていたんだな。
恐らく父の記憶の断片であろうその一瞬一瞬の写真のような光景は、幸せだけど辛い日々を克明に描いていた。
母親を助けようとした父。
住処を失ったソクジンさん達と争って、翼を半分失い祖父の家に流れ着いた。
父は泣いていたから、きっと母は贄になってしまったんだろう。
｢これで村も安泰だ｣と口々に言う村人達を、父はおぞましく冷たい目で眺めていた。
｢あんなものがあるから……｣
低く唸るような慟哭。"あんなもの"と呼ばれたものが、何を指しているのかは分からない。
ただ、父は華やぐ村の人々を睨みながら、この世の全てを憎んでいた事だけはわかった。
｢A｣
ふと、名前を呼ばれる。
だけど、その声の相手は"私"ではない。
そして、その父の姿も神様である"ユンギ"ではない。残り少ない神の力を使って、人間の姿をとっている。
まだ首の据わっていない赤ちゃんを抱いて、父はゆっくりと歩き出した。
・
・
・
次の場面になると、父は都会のビルに居た。
飛び交う怒鳴り声と汚い言葉たちは、全て父に向けられていた。
｢……お父さん｣
小さい私を連れて、父は初めて見る人間だけの社会に飛び込んだ。
常識を知らない父は家を探すのも、仕事を見つけるのも苦労していた。
｢使えない｣
｢ゴミ｣
｢死んで詫びろ｣
何も知らず、何も出来ない父を周りの人間達は罵り、詰った。
小さかった私を食わせる為に何度も土下座をし、仕事にしがみつき、金を稼いだ。
父の記憶の中の私は段々と笑わなくなっていった。
それでも、父は働いた。人間の社会ではお金がどうしても必要だということを知っていたから。
・
・
・
――声が聞こえる。
｢ユンギ、見つけたよ｣
｢Aには手を出させない｣
｢……翼のないお前に何が出来る？｣
そう言われて、口を噤んだ父の唇からは血が滲んだ。
｢……"あれ"を、壊す｣
怒りの篭った声。
"あれ"って、なんだろう。
父の言葉と共に、私の意識が途切れた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 274人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「BTS」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
sai(プロフ) - fanさん» コメントありがとうございます 文脈とかはあんまり考えてないんですけど、読みやすかったら何よりです^^* 楽しんでください〜 (2020年2月29日 13時) (
レス) id: 00e0a369b0 (このIDを非表示/違反報告)
fan(プロフ) - コメント失礼します。まだ数話しか読んでいないのですがとても文脈がしっかりしていて読みやすく楽しい作品だなと思いました。 (2020年2月27日 16時) (レス) id: b1b69e3863 (このIDを非表示/違反報告)
sai(プロフ) - カナタさん» 番シリーズから！ありがとうございます！ 今回も全員総出演で不穏面白く書きたいと思いますー 完結まで楽しんでください〜 (2020年2月14日 21時) (レス) id: 00e0a369b0 (このIDを非表示/違反報告)
カナタ(プロフ) - はじめましてです^^ 番シリーズから飛ばせていただきました！題名から田舎でのんびり系かと思いきやファンタジーな内容にハラハラしながら読ませていただきました！ま未だ出ていないメンバーもいまし今後も更新楽しみにお待ちしてます！ (2020年2月14日 2時) (レス) id: 684671b8cd (このIDを非表示/違反報告)
sai(プロフ) - はじめましてさん» こちらこそありがとうございます〜 ほんと好きなように書いてるんで、好みに合って嬉しいです^^ これからも好きに書くので、気が向いたら読んでやってください！ (2020年2月11日 13時) (レス) id: 00e0a369b0 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：sai
| 作者ホームページ：https://twitter.com/xxx___sai/
作成日時：2020年2月5日 13時
