37： ページ39
.
Aがそう言ったのと、ほぼ同時。
車の走る音。軽いブレーキの停止音。
仮免講習会場の前に、一台の黒い外車が停まった。
「……良かった。ここにいたのか」
低い、男性の声がする。
車のドアが開き、その声の主だろう男が現れた。
月のような銀髪。さそり座の目を思わせる赤い目。
エンデヴァーやオールマイトと同世代だろうか。
誠実そうに見える反面、やや神経質な印象を受けた。
Aの身体がぴくりと跳ねて、大きな瞳が一瞬、歪む。
「ああ、影巳さん！
すみません、予定より講習が長引いてしまって……」
「いえいえ、構いませんよ。
こちらこそ、ちょっとした帰宅の遅れ程度で迎えに来てしまう心配性で申し訳ない。
いつも娘のご指導、ありがとうございます」
「最近物騒ですからね。そのご心配、分かりますよ」
士傑の教師が頭を下げれば、男もまた頭を下げる。
イナサやケミィ、肉倉も男を珍しがる様子はない。
知り合いなのだろうか。
いや、知り合いというよりはもっとビジネスライクで淡白。
――娘のご指導？
答えに辿り着くより先に、Aが口を開いた。
「……パパ」
その声が、震えていたのは気のせいだろうか。
彼に向けた赤い瞳が、怯えているように見えたのも。
Aの姿を確認した男は、ふう、と息をつく。
安心したようなため息ではない。
どちらかというと呆れや、苛立ちを滲ませている。
「またどこかで宇宙人ごっこをしていたのかと思った。
すみません。うちの娘、少し頭がおかしいんです」
「いやいや、そんなことありませんよ！
娘さんは優秀ですし、ヒーローには差別化とオリジナリティが大切ですからね。良い個性です」
「そうでしょうか。……まあ、先生がおっしゃるなら」
迷惑をお掛けします、と男が頭を下げる。
その間もAは俯いて、一言も離さない。
イナサは苦虫を噛み潰したような顔で二人を見ており、ケミィと肉倉は気まずそうだ。
「お言葉ですが……娘さんなのでしょう？
そのような言い方はあまり良くないと……」
「おやおや、貴方はもしやオールマイト！
お会いできて光栄です。しかし私は心配なんです。
ついそれが行き過ぎて言葉が厳しくなってしまう……申し訳ありません」
「いやいや、謝るなら影巳少女に！」
ね、と微笑むオールマイト。
男――Aの父親に同意を求めるが、彼は決して頷かない。
ちらりとAに目をやりながら、愛想笑いを浮かべるだけだ。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 86人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
るいるい＊*(プロフ) - ヨシさん» コメントありがとうございます！ 応援の言葉、とっても嬉しいです！ (2019年7月10日 18時) (
レス) id: d4f8fbb131 (このIDを非表示/違反報告)
るいるい＊*(プロフ) - 蛍狼 ＆ ローシさん» 応援ありがとうございます！ ずっと書きたかった話なのでそう言っていただけると嬉しいです！ これからもよろしくお願いしますv (2019年7月10日 18時) (レス) id: d4f8fbb131 (このIDを非表示/違反報告)
ヨシ - 夢主ちゃんがすごく不思議可愛いです！応援してます！ (2019年7月10日 18時) (レス) id: 83a9ab1185 (このIDを非表示/違反報告)
蛍狼 ＆ ローシ(プロフ) - 高校が士桀高校なのが個人的に凄く好みです！夢主ちゃんと天然くん達の絡みや、かっちゃんとのコントのような絡みもめっちゃ面白いです！後、地球人に爆笑しました！更新頑張ってください！応援してます！ (2019年7月10日 15時) (レス) id: cc961492f3 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：るいるい＊* | 作成日時：2019年7月10日 6時
