壱 ページ2
ある女性が夜の街中を歩いている。
足取りは軽やかなステップを刻み、艶のある紺色のヒール音が彼女の上機嫌さを物語っていた。
今し方本を買ったのである。102年程前に書かれた本でどこの古本屋にも無かったのだ。
名を【レディーレ】と言い、ラテン語で「帰る・戻る」という。
ロシアにいた頃、今は亡き友人に借りて読んだ本だ。
この本を読んだ当時、この本欲しさに友人に毎日この本を譲ってくれないか頼んだものだ。
だがこの当時もこの本は数少なく、何でも作者はこの本を10冊しか出版しなかったそうだ。
そんな本がまさか日本の古本屋にあるなんて思いもしなかった。
仕事帰りにたまたま見つけた古本屋に立ち寄っただけなのにこんな美味しい収穫があるなんて……仕事を頑張ったかいがあるってものだ。
そんな軽やかな足取りを妨げる産声が聞こえた。ここから差程遠くない距離。
近づく連れに声は大きくなってゆく。
母親があやす様な声も聞こえない。
まさかと思い、産声のする方へと行くと案の定わたしが予想した想像が現実となった。
公園のベンチの上に子供だけが取り残されていた。辺りに親がいないか確認してみるが人っ子一人居ない夜道である。
赤子を泣かしたままでも致し方ないので抱き上げてみると赤子の体は布越しでもわかるほど冷えきっていて数時間はこの状態のまま放置されていたことがわかる。
「よしよし、寒い中よく耐えたね。」
慣れた手つきであやすと次第に産声は消え、キャッキャッと喜ぶ声に変わった。
「ふふ、可愛いな」
……昔も今も人の世は変わらんな。負担になるものは簡単に捨てゆく。それが一つの命であってもだ。
「あーぅ?」
「なんだ、慰めているのか?」
「あーぁ!」
「そうだ、赤子や私の子にならんか」
「あ!」
「そうかそうか!私の子になりたいか!!なら名を決めてやらんとな」
「お前の名は今日から作之助だよ」
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作者名:來 | 作成日時:2018年4月1日 9時