雨に濡れても３【Fischer's】【ダーマ】

１２１(ダーマ) ページ39

日付けが変わる頃、そーっと鍵を開けて部屋に入る。

仕事忙しくて、毎日帰りが遅くて。

先に寝てていーからなって、言ってるんだけど。


「そうだろうと思ってた……」


リビングのテーブルにノートパソコンを置いて、動画を見ながらうたた寝してるA。

キッチンには夕食が用意されてて、温めたら食べられるようになってる。

着替えも脱衣場に置いてある。

俺が帰って来たら、なるべく早く寝られるように。



Aだって毎日仕事してて、帰って来てからコレを全部用意してくれてる。

早起きもして、朝御飯と弁当。

それが分かってるから、先に寝てていいって言ってんだけど。


「俺らの動画見てて、寝落ちたな。」

笑い声を殺しながら、パソコンの画面を覗き込む。

アスレチックの動画が好きって言ってたから、アスレチックなのかと思いきや、

「……俺、じゃん。」

検索欄には

『フィッシャーズ』

『ダーマ』

って。


Aの寝顔はニヤけてて、何を思ってんのかなんとなく分かるから、こっちが恥ずかしくなってくる。




寝室から毛布持ってきてAに掛けて。

パソコン片付けて、用意してあった夕食をテーブルに乗せた。


(頂きます。)


手を合わせてから食べようとした時、Aが、
んんん……
って反応した。


「……あ、おかえりなさい。」


Aはそう言ったけど、明らかに目は起きてなくて寝ぼけてる。


「ああ、ただいま。」


そう答えた俺に、Aの手がツイッと伸びる。

手を繋いで欲しそうに、指がヒラヒラと動く。


やっぱ寝ぼけてんな、と思いながら、

右手でAの手を掴むと、キュッと握り返されて。

そのまま、また夢の中に戻ってしまった。


「お、おい。A？」


手は、握られたまま。


オイオイ。

俺、飯食いてぇんだけども。


幸せそうに、締まりない笑顔を見せるAに、離せよ飯食えねぇだろとも言えず。


「しょうがねぇなぁ。」


右手は繋いだまま。

左手だけで食べ始める。


左手で繋がなくて良かった。



Aの作る飯はうまい。

俺の好みに合わせようと、めっちゃ質問されたもんな。

あんまり得意じゃないからって言ってたけど、俺はそんな事ねぇけどなぁって思ってる。


俺は殆ど家事が出来ねぇし、休日にちょっと手伝うくらいだから、Aに負担ばっかかけてんじゃねぇかな。


Aは、幸せなんかな。

それがすげぇ気掛かりで。


だけど俺、繋いだ手を

離せやしないんだけど。



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