雨に濡れても２【Fischer's】【ダーマ】

４６(ダーマ) ページ4

中村さんが、

アイツ、

公園にいた男、

このスウェットの元持ち主、

の事を話そうとしてる。


聞きたい。

出来ればだけど、聞きたい。


元彼なのは分かったけど、あの嫌悪感を出すに至るには相当な何かがあったはず。

それに、あの公園でびしょ濡れになってたあの日。

何があったんだろうって思ってたから。



でも、そんな考えも直ぐに消し飛んだ。

話したくない、そんな顔をしてる。

思い出したくないのか、何かを絞り出す様な声になってて、途切れ途切れで、明らかに無理をしてる。


俺がそうさせてるのか、と思うといたたまれない。


話したくなければ話さなければいい。


そんなしてまで、聞きたいとは思わない。



｢いったーーい！｣

中村さんがおでこ押さえて叫んだ。

そりゃそうだ、めいっぱいデコピンくらわしたんだから。

え？何？なんで？な中村さん。


｢お前さ、今その話、ホントに俺にしたいの？｣


俺の言葉に、中村さんの目が大きく見開かれて、その目が潤んでるのが分かった。


｢そんな顔して、俺が聞きたいって言うと思うか？寧ろ聞きたくねぇわ。｣

今にも泣きそうな顔して。

俺はな、いつも笑ってて欲しいって思ってんだぞ。

そんな顔して欲しい訳ないだろうが。



｢……話したく、は、ない。｣

｢じゃあ、話すな。俺も聞かねぇから。｣


中村さんは、くしゃって顔を緩ませて笑った。

涙目のままだったけど、

うん、って頷いたから、

よし、って頭をガシガシってして。


やってから、女の子相手だって思って、乱暴だったかなって反省した。


涙を拭った中村さんが、

何か別の事を思い付いたような顔をして、上目遣いで俺を見た。

うわぁ、ホントに勘弁して。

俺のキャパもう一杯一杯、振り切れてんだよ。

対処の仕方、分かんねぇんだよ！




｢あのう……武田さん。｣

｢あ？何？｣



精一杯の平静を装う。

ホントにこれが俺の精一杯だから。



｢ダーマさんって、呼ばせてください。｣

｢……は？｣



え、何？何だって？



｢あ、あのね！私、武田さんと、もっと仲良くなりたいの！｣



想像の斜め上を行く発言に、

俺の脳が完全フリーズした。







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