雨に濡れても【Fischer's】【ダーマ】

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顔を上げてようやく見た彼は眼鏡をかけた、年は同じくらい？って感じの人で。


私と目が合うと気まずそうに視線を泳がせた。

そして、意を決したように私を見ると(もう睨むって言った方がいいくらいの感じで)


バッサァと何かを私に押し付けてきた。


｢それっっ……そこに落ちてたから、やる！！｣


彼が押し付けてきたのは、落ちていたにしてはちゃんと乾いていて凄くさわり心地のいいバスタオル。


え？と思って顔を上げると、グイッと手を引っ張られ、その手に自分がさしていた傘を持たせてくれた。

それから、バスタオルを私の頭に掛け直してくれて、更に着ていた上着を脱いで私の肩に掛けて。


｢えっと……あの……｣


｢すぐ帰れ。｣


彼の表情は変わらない。

睨みつけるような表情はずっとそのままで。


｢傘もタオルも、上着もそこで拾ったヤツだからみんなお前にやる。とにかくうちに帰れ。｣


何か言わなきゃと思うんだけど、言葉が出て来なかった。

彼はそれだけを言うと、雨の中を駆け出した。


一度だけ振り返り、

｢眺めてんじゃねぇ！帰れよ！！｣

と言い、


私が

｢はいぃ！｣

と答えると、フン、と鼻を鳴らして、また駆け出した。


そのびしょ濡れの後ろ姿を見ながら、何だかポカポカとした物を感じて、ああ、帰ろうって素直に思えた。




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