愚盲 ページ9
「おい!こんな所で何してやがんだ、風邪引くぞ!」
傘を片手に血相を変えて駆け寄ってくるその人は、心底心配しているような声をあげた。
走ったせいで、あまり傘をさしている意味がなくなっている。
隊服に染み込んだ雨水はより一層黒く上着を染めていた。
その全てにやはり土方さんは優しいんだなぁと改めて感じさせられてしまって、少し泣きそうになる。
川は荒れ狂い、その勢いは収まりを一向に見せない。
雨がアスファルトを叩く音も加わって、声がとても拾いにくかった。
「.....すみません土方さん。ご心配おかけしてしまって。ちょっとぼーっとしてて。」
「いいから早く傘んなか入れ。せっかく綺麗な着物も台無しだろ。」
この間、奮発した銀ちゃんに贈ってもらった着物。
水滴を吸い込み続けたせいでひどく重たい。べたべたと肌に張り付く着物と髪が鬱陶しかった。
ひどく悲しそうな顔をする土方さんはきっと、頬を伝うそれが雨水だけじゃないことをわかっている。
曇天の空の下。
深い理由なんて聞いては来なかった。
ただ降り注ぐ雨から私を守るみたいに、自分の肩を濡らしながら傘をさしてくれる。
正しいこととそうじゃないことを教えてくれて、きっと受け止めてくれる土方さんの優しさに甘えてしまいたかった。
身を任せてしまえば楽になれるなんて、自分のことしか考えられない私は正真正銘悪い女だ。
仕事があっただろうに、万事屋の前まで送ってくれる。
見上げれば部屋には明かりが灯っていて、いつもの騒がしい声が聞こえた。
今は、それら全てが息苦しい。
「........何かあればあいつを頼ってやれ。お節介焼いて人を助けんのが得意な野郎だろ。それにーーーもしあいつに言えないことがあるなら...俺を頼ってくれても構わない。力になる。」
砂嵐みたいな雨音がやけにうるさく感じた。
...きっと私はこれからすることに一生後悔し続けるだろう。
いくら懺悔しても拭いきれないほどの罪悪感を背負って、大切なものを自ら傷つけ続けるんだ。
でも、それでも。
「...........土方さん。」
「何だ。」
「私と、浮気しませんか。」
最低な恋を一緒にして下さい。
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月見おはぎ - ただの思い過ごしかもしれませんが、物語の中にDOESさんの曲名が入っていて銀魂愛を感じました。最高のお話を有り難うございます。 (2021年9月26日 18時) (レス) @page11 id: f413eaa44e (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - コメントするのこれが初めてです、、今まで読んだ作品で一番切なくて一番胸が痛くなって一番感動したお話でした。素敵な作品をありがとうございました。。 (2020年3月17日 23時) (レス) id: 97657b2818 (このIDを非表示/違反報告)
しののめ(プロフ) - なるぽんずさん» 燻った想いたちが不完全燃焼の状態で終焉を迎える。そんな物語を目指しました。そのようにおっしゃって頂けてうれしい限りです。課題頑張ってください...!高杉長編と沖田の心中ロメオを更新しております。そちらの次作でもお付き合いいただければ幸いです。 (2017年7月31日 21時) (レス) id: 5bb7c4f37e (このIDを非表示/違反報告)
なるぽんず - 読んでいて胸が苦しくなるような、心に響くお話でした。読み終わった今も悶々とした気持ちでいます。夏の宿題の読書感想文、できることならこれで書かせていただきたいくらいです(;_;) 切なくて悲しいけれどじんとくるお話をありがとうございました。次回作楽しみです (2017年7月31日 13時) (レス) id: fa67502a01 (このIDを非表示/違反報告)
しののめ(プロフ) - ローズさん» 執筆している側としても居酒屋あたりを思い返すと、考えさせられるものがあります....。最終話以降の展開の細かい展開は、やはり読者様達の御想像にお任せしたいとおもいます。こちらこそ、最後までお付き合いいただき本当にありがとうございました。 (2017年7月24日 22時) (レス) id: 5bb7c4f37e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しののめ | 作者ホームページ:http://nanos.jp/aoikasou/
作成日時:2017年6月10日 21時