代用 ページ40
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「.....何だよ、これ。」
曇り一つない白で埋め尽くされた部屋で、そいつは静かに目を閉じていた。
幾つもの医療機器に囲まれて、脈を表示したディスプレイが規則的な音をはじき出す。
血色を失った肌は真っ白なシーツに溶けてしまいそうな程、生気を失っていて。まるで人形の様に生々しく、それでいて身動き一つ見せない。
何本もの管に繋がれたAは、口元に宛がわれた機器を介して呼吸をしていた。
彼女はもう、居酒屋で騒いだり、アイスではしゃいだりはしないのだろう。
悔しそうに唇をかみしめる姿も、店で笑顔をふりまくあの仕草も。
もう手の届かない所にある。
「見ての通り植物状態みてーなもん。機械がなきゃ栄養摂取どころか息すらできねぇ。...つっても機械に生かされてるって点じゃあ、前から大差ねぇんだったか?」
「ッお前...!!」
「.....んだよその面は。」
何の情も込められていない声で、そう吐き捨てる銀髪の男。
愛した女がこんな状態で横たわっているのに、何も感じないとでも言うつもりか?
もしそんな人間がいるなら、そいつは血どころか神経すら通わない、ただの肉塊だ。
気色が悪いくらい清潔な部屋で、機械から吐き出される無菌状態の空気を吸って。
思考する自由すら奪われてもなお脈打つ心臓は、残された者のエゴで塗り固められた美術品だ。
「―――知ってたんだろ?全部。」
「何を、だ。」
「おいおいおい。この期に及んでバックれようたぁ往生際が悪いじゃねえか。」
理性というストッパーが外れたように、その影のある表情を歪める。
衝動に任せて抜かれた木刀は、気づけば俺のすぐそばまでこの首を吹き飛ばさん勢いで迫ってきていた。奴の真紅の瞳に宿るのは、殺意にも似た自己嫌悪。
こいつが本当に刃を突き立てたい相手は、自分自身であるはずだ。
「追いつめられたAが助けを求めたのは、チンピラから救ってくれたお巡りさんだったってわけか。....で、どうだった?救世主気取って人の女やった感想はよ。」
「ッ!」
木刀が突き立てられた背後の壁には亀裂が走り、破片が床に散らばる。
何も言い返せなかった。
万事屋の言っていることは何も間違っちゃいない。助けるふりをして、Aをあの女に重ねていたのは紛れもなくこの俺だった。
土方さん、と名を呼ぶ声が武州に居た頃のそれと重なって。病で倒れていく様が、まるであの日の後悔みたいで。
代用品として利用していたのはAだけではなかったのだから。
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月見おはぎ - ただの思い過ごしかもしれませんが、物語の中にDOESさんの曲名が入っていて銀魂愛を感じました。最高のお話を有り難うございます。 (2021年9月26日 18時) (レス) @page11 id: f413eaa44e (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - コメントするのこれが初めてです、、今まで読んだ作品で一番切なくて一番胸が痛くなって一番感動したお話でした。素敵な作品をありがとうございました。。 (2020年3月17日 23時) (レス) id: 97657b2818 (このIDを非表示/違反報告)
しののめ(プロフ) - なるぽんずさん» 燻った想いたちが不完全燃焼の状態で終焉を迎える。そんな物語を目指しました。そのようにおっしゃって頂けてうれしい限りです。課題頑張ってください...!高杉長編と沖田の心中ロメオを更新しております。そちらの次作でもお付き合いいただければ幸いです。 (2017年7月31日 21時) (レス) id: 5bb7c4f37e (このIDを非表示/違反報告)
なるぽんず - 読んでいて胸が苦しくなるような、心に響くお話でした。読み終わった今も悶々とした気持ちでいます。夏の宿題の読書感想文、できることならこれで書かせていただきたいくらいです(;_;) 切なくて悲しいけれどじんとくるお話をありがとうございました。次回作楽しみです (2017年7月31日 13時) (レス) id: fa67502a01 (このIDを非表示/違反報告)
しののめ(プロフ) - ローズさん» 執筆している側としても居酒屋あたりを思い返すと、考えさせられるものがあります....。最終話以降の展開の細かい展開は、やはり読者様達の御想像にお任せしたいとおもいます。こちらこそ、最後までお付き合いいただき本当にありがとうございました。 (2017年7月24日 22時) (レス) id: 5bb7c4f37e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しののめ | 作者ホームページ:http://nanos.jp/aoikasou/
作成日時:2017年6月10日 21時