声をきかせて (ページ45)

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倒れたあとすぐに意識を取り戻した彼女は

しきりに貧血だと言って

念の為医務室に運ばれた。

"君は？"

マ "スヨンのお友達なの。スヨンなんだかんだで心許してるみたいだし、彼との方が話しやすそうだから、スヨン。私たち先でてるけど大丈夫？"

Y 『大丈夫。ありがとう。ごめんね。』

医務室のベッドに横になっていた彼女の手を握れば

俺をみてびっくりした顔をしながらばつが悪そうに笑った。

Y 『来てくれてたんだ。ごめんね。こんな姿見せちゃって』

G "大丈夫？"

Y 『大丈夫。本番に弱いの私。上がっちゃったのね。』

G "そっか。さっきの人・・・"

Y 『従兄弟なの。先日こっちに帰ってきて、今うちにいるから。今日もそれでねきてくれたみたい。ククク。大丈夫。ジヨンが心配するようなことないから。』

G "そう。"

Y 『ねぇ。ジヨン。実はね私。スンヒョンは全く聞こえないと思ってるけど、私微かに高音だけまだ聞こえるの。ほんと僅かにだけど、でもねさっき全く聞こえなくなって、指先が冷たくなって全く動かなくなっちゃったんだ。どしたんだろ。"

そう言う彼女。

その表情は少し不安を映していた。

Y 『なんて。本当ほとんど聞こえないんだけどね。海の中にいて陸から話しかけられるような感覚？聞こえてるか聞こえてないかの境目みたいな。』

そういうとまた悲しげに目を伏せて

その姿を見ながら何も出来ない俺が

もどかしかった。

Y 『コンクール終わっちゃったね。あーあ。結構自信あったんだけどな。』

そういうと立ち上がりドアの前まで歩みを進めると

こちらに向き直り悲しげに笑う彼女。

Y 『荷物取ってくる。ちょっと待ってて。』

付いていこうとする俺を大丈夫だと静止して出て行った彼女。

なかなか戻ってこない彼女が心配になり

控え室まで向かう途中

聞こえてきた英雄ポロネーズ。

ゆっくり開けた会場のドア

ステージの上で軽やかに弾き鳴らす彼女に息を飲んだ。

乱れのない旋律。

絶え間なく動き続ける繊細な指さばき。

彼女は演奏を終えると誰もいない観客席に向かって一礼した。

それに向けて送った俺の精一杯の拍手。

彼女には聞こえるはずのないその音。

気配で俺に気づくとそれを見て

ぎごちなくはにかんだ。

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