10eme livre Mort de cuisinier

Quatre-cent-soixante-cinq ページ33

「俺の勝ち!」

『…くっそ』



花屋で適当にえりなちゃんにあげるらしい花を見繕って
調理室の一室を借りて久々に憂さ晴らしという名目の特訓をさせてもらった

幸平相手の時より少しだけクロスする数を多くしてもらったんだけど
見事に負けて調理台を背に座り込んでしまっている



「まだまだだなぁ？」

『完璧に八つ当たりですがね』

「っはは」


流石、と
近寄って来たアサヒさんが僕に手を伸ばしてくれて
借りて立ち上がると


『っと…わ』

「おいおい、ふらっふらじゃねえか」



立ち眩みがしてしまって
その威力の強さと経験の差を感じてしまうのが
少し悔しい



「ほら、これ」

『あ、お手製ですか？』

「当然」

『やった』

「意外と元気かよ」



少し休憩をする流れになったのか
アサヒさんが手渡してくれたのは
お手製のCaffè Shakerato[カフェ・シェケラート]


いわゆる、エスプレッソの一つで
エスプレッソ2ショット、氷をシェイカーに入れて
シェイクした後、
グラスに氷を入れないように泡立てて注いだら完成

日本だとアイスコーヒーには氷を入れることが多いけれど
向こうのバリスタさん曰く
氷が解けることでコーヒーの味が薄くなるのが堪えるそうで


『ココナッツですか？』

「バレたか」

『流石に香りが強いですからね』



基本のルセットに今回はココナッツオイルを加えてくれたらしい

お互いに椅子に座り
ちょっとしたお茶会っぽくなった



『アサヒさん』

「ん？」

『気分は腫れましたか？』



折角だから
若干の不機嫌を指摘してみると



「温すぎ」



ｽﾄﾝと無表情で、この一言



「あんなのが一席なら、
お前なんで一席にならなかったのか理解できねえ」



そりゃあね


僕の感情云々は別にして
潤さんに連れられてここに来てから、スタジエールでイタリアに行くまで
遠月という狭い範囲で満足していたけれど
スタジエールの後は
少しだけ見聞が広まったように思う

ちょっと人から逸れたのは仕方ないとして


『僕は同期達と約束していましたし
司や竜胆の方が強いですから』

「それはAの方だろ？
サクとしては勝負してねぇじゃん1」


うーん…


アサヒさんの言う通り
確かにサクとして勝負したら
どうなるか分からないけれど



『僕は自分が望むように料理したいって目的ですからね
誰よりも上に立ちたいとかじゃなくて

僕が楽しめればいいんですよ』

「ホントかぁー？」

『さぁ？』



ちょっとした仕返しのつもりで
以前のノワールの時のように表面上の笑顔にしてみたら
猫被るな、と叩かれた

ひどい

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