8éme livre Mort de 3éme année

Trois-cent-soixante-dix ページ36

ある意味、一色も幸平君と近いのかもしれない
誰にも負けない司に対して
あっけらかんと向き合い、恐れずに楽しんで料理する姿



「…ふふっ、素晴らしい具合だね!」

「今引いているのは一番出汁、か」


ウサギ肉に出汁？
いや、和食なら出汁は使うか、

その時


「…どうしてそんなにニコニコと調理できるの
勝てるわけないのよ

司先輩の力は知ってるでしょ」


と紀ノ国さん


「相変わらず寧々は真面目だなーー!!」

『こらこら竜胆』


気持ちも分からないワケじゃない

彼女は頑張って頑張って頑張って
日々努力を重ねてきた
しかし、

悲しいことに人間は平等じゃないもので



「…天才はいいわよね」

「…」



ジェラシーかもしれないけど


『やっぱ…悔しいよね』



すると



「お、一色の皿お目見えだぜ!」

『へー…って』



そこで一色が取り出したのは




ｰｺﾄ


椀


「僕は椀物で行くよ

素材の良さをたっぷり詰めた
特製一色汁さ!」


「「「わ、椀物ーーーーー!!!」」」


反逆者側は勿論、
会場中が叫んでいた気がする



「あっははははは!」

『いやー、攻撃的和食って言ったって…』


笑い転げている竜胆と苦笑する僕


「すっげえなー一色のヤツ!」

『野ウサギを椀物か…、煮物、？』


椀物はお吸い物やみそ汁、一般的に言えば汁物が想像されるだろうけど
正確に言えば、椀を使っていれば全部椀物と言える


「けどよ!、出汁引いてんだぜ？」

『だよねぇ…』


汁って言ってたし
どう見ても汁物としか思えない
クセがかなり強いはずの野ウサギ


けれど



「勝負はここからだよ


先ほど引いた昆布出汁を温めながら
水気が飛ぶまで炒めた野ウサギのガラ
を投入し

ジビエのうま味成分を抽出」


一色の調理の手は止まらない



『うわー』



アキラの時も思ったけど
ジビエの骨に近い部位程クセというか、
臭みが強い

それをさらに使いまくるのか
冒険しまくる一色に驚かされっぱなしだ


一色の鍋から
此処まで香りが立ち上ってきて
隣にいた竜胆が聞いてくる



「どうだA、お前の鼻」

『流石一色と言うべきか…』



その香りには、クセの強さや渋み
一色の椀物を邪魔するようなものなんて
一切嗅ぎ取れない


そして



「完成です、
さぁ…召し上がれ」



一色の椀物が仕上がった



アンさんがゆっくりと蓋に手をかける


「椀物の完成度は
蓋を取った瞬間に分かるといっても過言ではない

立ち上る香気の初撃によって
いかに人を引き込めるかどうか、」


そして蓋を開けた瞬間



ｰﾌﾜｯ



会場中に野ウサギの香りが充満する

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