3 ページ3
.
全部全部詰めて、最後に向かったのは洗面台。ふたつ並んだ歯ブラシが目に入った。
初めて泊まった日。持ってきた歯ブラシを彼の物の隣にそっと置いた時のことを思い出した。何故だかにやけが止まらなかった。嬉しかったんだ。
「それも、持ってけよ。」
伸ばす手を止めていると、ツンとした声。まさか後ろにいると思わなくて背中に冷たい汗をかいた。
「これは…捨てといて。」
自分でも情けないと思った。でもどうしても怖くて、出来なかった。一緒に過ごした時間があまりにも、長すぎたから。
靴を履く私の後ろに、彼が立っている。どんな顔で見ているのだろうか。少しでも眉を顰めたりしていてくれたらいいのに。
「お世話に、なりました。」
深くお辞儀をする。彼は私の１つ上の年齢だ。大学時代から付き合っていた。今年で、５年目だった。
何も言わない彼に、恐る恐る顔を上げる。やっぱり腕を組んだままで、何も感じさせない表情。
ねぇ、行っちゃうよ？いいの？私、もう帰ってこないよ？止めないの？
頭の中がグルグル回る。小さな戸惑いの芽が生まれた。だって、やっぱりあまりにも隣にいた時間が長かったから。
「お幸せに。
でもどうせお前は、すぐ帰ってくると思うよ。
せいぜい楽しんで。」
ミンソクはそう言うと背中を向けて、部屋の方へ戻って行った。何これ、何これ何これ。私のこと、馬鹿にしてるの？
別れて正解だったんだ。彼といて私は幸せになれない。これで、良かったんだ。
「誰が戻ってくるか…
自惚れんな！ばーか！」
喧嘩はしたことがない。なぜならミンソクはいつも正しいから、いつも私が一人で暴れまわって終わる。でも、こんな言葉を投げたのは初めてだった。手が震える。
扉を開けて部屋を出た。
頬に流れた涙の意味は、考えなかった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1438人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「K-POP」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ギョンスくん(プロフ) - 初めまして、、拝見いたしました、とてもいい作品に出会えたなと嬉しく思うのですが、少し疑問がございまして、、鈴の音がする後輩ちゃんとどうゆう関係だったのだろうかと思うと居ても立っても居られなくえコメントさせていただきました、、(>_<) (2018年7月6日 23時) (
レス) id: 56dfa01b28 (このIDを非表示/違反報告)
かのか(プロフ) - もう！何て言ったらいいのやら。表現が素晴らしすぎる！作文さえもダメダメな私には感想さえもうまく言えないけど。素敵なお話有り難う！こんなしうちゃん、欲しい。 (2015年6月29日 0時) (レス) id: 171b30f749 (このIDを非表示/違反報告)
るー(プロフ) - 初めまして、凄く素敵なお話でした。小説を読んで泣いたのは初めてです。ほんとに素敵なお話をありがとうございます (2015年5月23日 0時) (レス) id: 54f11cc9aa (このIDを非表示/違反報告)
ことみ(プロフ) - なんだかすごいミンソクっぽいお話で世界感とても気に入りました。他の作品も読んでみます！ (2015年5月9日 23時) (レス) id: 5ca9847b63 (このIDを非表示/違反報告)
rurarura(プロフ) - 始めまして、とてもグッとくるお話でした。もうすっかり感情移入してしまって胸が苦しくなりながらも最後のしうちゃんに全て持って行かれました…いいお話ありがとうございました^ ^ (2015年5月6日 13時) (レス) id: a13f1528f6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：Naeun.
| 作成日時：2015年4月29日 13時
