#26 ページ26
「あー、美味しかった！」
「それは良かった」
「こんなに豪華なお料理、こんな素敵なお部屋で食べられるなんて…
本当にありがとう。最高に幸せな誕生日だよ」
「どういたしまして」
やっぱり、ミンソクさんはとびきり大人で、スマートで、穏やかで…
ベッキョンとは正反対。
こんな素敵な人に想われているのに、まさか気持ち、傾くわけ、ないじゃんか。
「風呂入る前にさ、ちょっと散歩でも行こうか」
「あ、うん」
そうだ…
この後、ミンソクさんと一緒に、露天風呂。
初めて一緒にお風呂入るんだ…
浴衣の上にはんてんを羽織り、ミンソクさんと並んで歩く。
珍しく、手もつないでくれた。
どうやら誕生日だから、特別仕様みたいだ。
ちょっとでも動いてお腹、凹ませなきゃ！
そう思っていたのに、また温泉饅頭を食べてしまった。
「A、本当に体、大丈夫？」
「あ、うん、もう平気だよ。のぼせただけだから」
「そう？でも本当、ソヒョンちゃんがいて、すぐ気付いてくれて良かったよ」
「うん…」
「ソヒョンちゃんの社員旅行、Aがプランしたんだってな」
「あぁ、うん。
まさか場所が同じなんて、ほんとびっくり」
「だな」
握っていた手、ミンソクさんの力が少し、強まった。
「A、冷えてきたし…
そろそろ帰ろうか」
「…ミンソクさん」
「早く、お風呂、一緒にはいろ」
なんて可愛く言われたら、私はもう、頷くしかなかった。
旅館のロビーに入ると、ふと、時計が目に入る。
21時を少し、回ったところだった。
行かないって言ったし、別に、いいよね。
ベッキョンだって、あんなの、その時の勢いで言っただけかもしれないし。
部屋に戻れば、一気に緊張してきて、今まで1年ちょっと付き合ってきて
何度も抱き合っているけれど、なんだか、今日は特別な感じがした。
「あ、ちょっと湯加減、見てくる」
「うん。お願い」
裸足になり、窓を開けたら、3月とはいえど夜はまだ冬みたいに寒い。
はんてんを羽織ったまま、露天の湯に手をつけると、そこから温もりが体全体に行きわたっていくよう。
「あったかい」
緊張感も幾分か和らぎ、その向こうに広がる中庭の美しさに視線を移したときだった。
庭の端に、見つけてしまった。
ベッキョンの、横顔。
手を口に当てて、寒そうな体。
時計を見れば、もう21時30分を回ってる。
もう、なんで待ってんのよ…
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作者名：nayuta | 作成日時：2018年2月28日 20時
